『シャングリラ』終了後に中国映画についてのトークショーがあるらしかったが、聞いたら昼ごはんが食べられないからパス。てきとうに昼ごはんをすませ、「中国映画の全貌2010」二本めは、今年の目玉、王小帥(ワン・シャオシュアイ)監督の『北京の自転車』。これはベルリン映画祭に出品されたころから楽しみにしていて、台北でDVDも買ったし、『北京の自転車』の邦題で配給が決まったと聞いたのもずいぶん前。もうスクリーンでは観られないと思っていたので、観られてとてもうれしい。台湾でDVDが出ていても特に気にしていなかったが、これは製作に台湾がからんでいて、スタッフにはおなじみの名前がチラホラ。
北京を舞台に、三つの階層に属する17歳の少年少女たちの自転車をめぐる物語。ひとつめの層は、たいして教育も受けずに田舎から働きに出てきた人たち。この層に属するグイ(崔林/ツイ・リン)にとって、自転車はなくてはならない商売道具であり、自分のものにするためにがむしゃらに働く。ふたつめの層は、北京に住んで高校(高級中学)にも進学できたが、経済的には貧しい層。この層に属するジェン(李濱/リー・ピン)にとって、自転車はなくてはならないものというわけではないが、裕福なまわりの友人やガールフレンドに対する見栄や、彼らといっしょに遊ぶためにはぜひとも必要なものだ。大人からみたらどうでもよさそうなことでも、17歳にとってはほとんど人生のすべてなので、親の苦労や家庭の事情を思いやる余裕はない。みっつめの層は、ジェンの友人たちが属する裕福な層で、彼らにとって自転車とは「盗まれたらまた買えばいい」ものでしかない。
このような状況で、自分のものになるはずだった日に自転車を盗まれたグイと、親から盗んだ金で盗品自転車を買ったジェンが、その自転車をめぐって壮絶なバトルを繰り広げるお話。やむを得ず交替で使用することにしたふたりは、一瞬心を通わせそうになるものの、そうはならなくて、「ちょっといい話」なんかになってしまわないのがいい。みんな、自分とは異なる層にとって自転車がどういう意味をもつのか、ぜんぜん理解していないのがリアル。
全篇に登場する北京の胡同のたたずまいがすばらしい。いかにもな風情で登場するのではなく、少年たちが自転車で走り回り、危険極まりない雰囲気なのがまた、意表をついていていい。ジェンの住む家は、四合院の上に建て増ししたような窮屈そうなところだけど、北京の中心部に近く、景山やら何やらが見えて、すごくうらやましい環境。これは2000年の映画で、わたしが北京に行ったのが2001年なので、ここに映っている北京はわたしが見た北京にかなり近いだろうと思い、感激もひとしお。今はかなり変わっているだろうが、ロケ地探しに行きたくなる映画。
グイの私服のセンスには悶絶するが、田舎から出てきた役にしてはけっこうイケメン。演じる崔林(ツイ・リン)は、のちに『天安門、恋人たち』[C2006-46]で郝蕾(ハオ・レイ)の圖們の恋人役を演じる。ジェンはほっぺたが赤くてグイよりも田舎っぽい顔立ちだが、東京の高校生みたいなネクタイの制服で、なんとなく北京の高校生っぽい雰囲気に見える。ジェンのガールフレンドを演じているのは高圓圓(カオ・ユアンユアン)だが、『スパイシー・ラブ・スープ』[C1998-14]や『きみに微笑む雨』[C2009-25]みたいな透明感はなく、重たい髪型のせいかなんだかおばさんくさくて、女子高生のキラキラ感がない。周迅(ジョウ・シュン)もちょい役で出ているが、きれいな服をとっかえひっかえしているのはファンサービスか。
上述したように、制服が東京の高校生みたいで、今ならともかく10年前にこれはありなのか、それとも映画だからなのか気になった。もしかしたら特に名門校で、富裕層が多いのもそのせいなのかとか、そのあたりの事情がもう少し知りたいと思った。だって、たいていの台北の高校生よりもずっと洗練されて見えたから。台湾の制服は特に冬がひどくて、うら若き乙女がこんな格好をしていていいのかと、見ているほうが悲しくなる。台湾映画は本物の制服を使っていることが多いけれど、さすがにあのダサさは表現できていない。
10年待ってやっと観られたこの映画、おおむね好評のようだし、王小帥のこのあとの作品、“青紅”や“左右”もぜひぜひ公開していただきたいものである。