実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『映画の中で出逢う「駅」』(臼井幸彦)

『映画の中で出逢う「駅」』読了。

映画の中で出逢う「駅」 (集英社新書)

映画の中で出逢う「駅」 (集英社新書)

私のサイト[亞細亞とキネマと旅鴉]では、ロケ地を映画別と場所(都市)別にまとめているが、いつか種類別にもまとめてみたいと思っている。学校とか公園とか映画館とかレストランとかいったように。なかでも駅は、映画に出てくることも多いし、印象的なシーンも多い。だからこれは、とりあえずチェックしておくべき本だ。

内容は、「駅のドラマ性」「舞台装置としての駅」「西欧/アメリカ/日本の駅と映画」という章立てからもわかるように、駅が出てくるシーン、駅の構造、個々の駅という三つの視点から論じられている。著者は駅建築の専門家らしく、駅の建築や構造の面からの説明が詳しいのがよい。

だけど、取り上げられている駅と映画には不満が残る。実際に訪れた駅のみを取り上げているようだし、仕方がないのだろうが、「西欧」「アメリカ」「日本」しかない。ハナから期待していないとはいえ、日本以外のアジアが取り上げられていないのははなはだ不満だ。日本に関しては、『東京暮色』『彼岸花』『早春』など、基本はおさえられている(それを確認したから買ったのだが)。古い映画は一応いわゆる古典的名作が挙がっているが、ここ10年くらいの映画の選択はかなりひどい。

連載したエッセイを新書にまとめたものであるため、専門書に抱くような期待は場違いかもしれない。しかし建築に関する説明が専門的なだけに、それ以外の部分や書き方に不満を感じてしまう。新書に期待するのは酷だということは一応わかったうえで、不満な点を挙げておきたい。

  • 同じ映画の説明や似たような記述があちこちにあり、内容の整理、構造化が不十分だと思う。複数の視点から書かれているので、ある程度の重複は仕方がないし、構成が難しいこともよくわかるのだが。
  • 索引がほしい。いくら新書でも、駅名索引と映画名索引は必須だと思う。
  • 駅の写真や構内の図なしに、構造などの説明をされてもわからない。本来、豪華なカラー写真をばんばん入れて作るべき本だ。
  • 駅別に見たその駅が出てくる映画、映画別に見たその映画に出てくる駅が一覧できるようになっていてほしい。それが無理なら、節ごとに「ここで取り上げる映画」を並べるなどの工夫がほしい。

結局のところ、「やっぱり駅ってすばらしい」というのに終始している気がするけれど、鉄道網の発達や、移動手段としての鉄道の位置づけの変化にしたがって、映画の中に駅が出てくることの意味も変わってくる。映画が作られた年代と、映画の中で扱われている年代を考慮しながら、駅の登場頻度や登場のしかたの変化を考察すれば、もっとおもしろいと思う。

最後に、この本では言及されていない「映画の中で出逢う駅」をいくつか挙げておきたい。まず台湾では、『恋恋風塵』(asin:B0007LXPJ0)の十分車站(ロケ地紹介)と、『悲情城市』(asin:B00008BOFR)の大里車站(ロケ地紹介)が真っ先に思い浮かぶ。ほかには、『川の流れに草は青々』の内灣車站(ロケ地紹介)、『ふたつの時、ふたりの時間』(asin:B00007K4RH)の台北車站(ロケ地紹介)、『ブエノスアイレス』(asin:B00005FXNH)の忠孝復興站(ロケ地紹介)など。香港では、『ならず者』の九龍火車總站の鐘楼(ロケ地紹介)。訪れたことはないが、『欲望の翼』(asin:B000EZ82YM)のフィリピンの駅は非常に印象的だ。韓国だったら(やはり行ったことはないが)『春の日は過ぎゆく』(asin:B000657KMA)や『黒水仙』(asin:B0009Q0JLK)。それから南米では『ブエノスアイレス』のレティーロ駅(ロケ地紹介)。そして絶対に忘れてほしくない極めつけの「駅映画」は、ソ連映画ふたりの駅』である。ほぼ全篇にわたって駅が舞台の映画で、大都市の大きな駅ではないが、レストランもあって駅自体も魅力的である。