『台湾に生きている「日本」』読了。
- 作者: 片倉佳史
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2009/02/27
- メディア: 新書
- 購入: 6人 クリック: 130回
- この商品を含むブログ (19件) を見る
三部構成のこの本の第一部は、「台湾に生きている「日本」を歩く」。著者は以前にも『台湾 - 日本統治時代の歴史遺産を歩く』[B729](asin:4900901458)という本を出しているので、一部ダブっているものもあるが、それを除くとわりとマイナーなラインナップ。『台湾 - 日本統治時代の歴史遺産を歩く』は神社系が多かったが、今度は石碑が多い。石碑も時間が経てば歴史的な価値が出るだろうし、なぜそれが建てられたのかとか、それが倒されたり、あるいは大事にされたりといったその後の変遷とか、考察の対象としては興味深い。しかしたいてい芸術的、美学的な価値はないので、あまり見に行きたいと思うようなものではない。そもそも、石碑だの記念碑だの歌碑だのを作るという発想がどうも理解できない。
わたしが興味があるのは、神社や石碑よりも近代建築である。台湾は、旧満洲等と並ぶ近代建築の宝庫であり、しかも日本との関わりも深い。旧満洲や北京や上海の本は出ているのに、なぜか日本で台湾の近代建築の本は出ていない。誰でも出せるというものではないので、建築史研究者のみなさんよろしくお願いします。
第二部は「台湾人と日本人 - 日本統治時代の絆を訪ねて」。ここで気になるのは、「サヨンの鐘」が取り上げられていること。『練習曲』[C2007-32]で、新しく作られた鐘と、『サヨンの鐘』の歌を歌う原住民のおばあさんたちが出てきたところである。ここも残っているのは石碑だが、一度は行ってみたい(ロケ地だし)。この本には、映画『サヨンの鐘』[C1943-13]について、「国策映画は、戦争の終結と同時に消え去っていく運命にあったのである。」(p. 214)と書かれている。たしかに、清水宏の『サヨンの鐘』は消え去ったかもしれないが、これはたしか戦後にリメイクされていたはずだ。今その出典を見つけることができないが、このあたりの事情についてはもっと詳しい情報を知りたいところである。日本と国民党と台湾の関係は、そう単純ではない。
第三部は「台湾の言葉となった日本語」。「オバサン」や「ウンチャン」は有名だが、ごく一部で使われているものも含め、いろいろ紹介されている。おもしろいのは、ブヌン語にあるという男っぷりを賞賛する言葉、「オトコダー」。どの映画だったか忘れたが、大木実が音頭をとって、「ひとつ、男で生きたい」「ひとつ、男で死にたい」とか唱和するシーンがあって、「男」といえば大木実を連想する。ちょうど昨日、この項目を読んでそんなことを考えていたら、大木実の訃報が流れた。非常に残念である。追悼の意味で、大木実の魅力全開の『東京ギャング対香港ギャング』[C1964-21]のDVDをぜひとも出していただきたい。