実録 亞細亞とキネマと旅鴉

サイトやFlickrの更新情報、映画や本の感想(ネタばれあり)、日記(Twitter/Instagramまとめ)などを書いています。

『第三の男(The Third Man)』(Carol Reed)[C1949-17]

おやつのピーチロールを食べながら、ワケあってキャロル・リード監督の『第三の男』をDVDで観る。超有名な映画ながら、全くの初見(↓これとは違うけれど、全く同じ商品がないようなので)。

第三の男 [DVD] FRT-005

第三の男 [DVD] FRT-005

この映画に出てくるウィーンは、世紀末の華やかな美の都ではない。終戦直後の、アメリカ、ソ連、フランス、イギリスが分割統治していた頃のウィーン。ナチスによる支配と戦争による疲弊や傷痕が、ストーリーに生かされている。

光と影を有効に使った撮影はなかなかすばらしく、クラシックな建物や石畳ともマッチしている。モノクロがカラーの代替品ではなく、モノクロならではの豊かさをもつことがよくわかる。有名な長回しのラストシーンもわたし好み。『マキシモは花ざかり』[C2005-45]のラストシーンが『第三の男』だということがやっと理解できた。しかしながら、当時のウィーンの、時代の空気みたいなものがとらえられているかというと、あまりそうではないような気がする。いくらヨーロッパでも、いくら美の都ウィーンでも、闇市の街にはもう少しナマナマしさのようなものがあったのではないだろうか。

さんざん気をもたせたわりに、オーソン・ウェルズがあっさり悪者だったのがちょっと不満。もう少し奥があるのかと思ったのだが。しかし、オーソン・ウェルズがはじめて魅力的に見えた。毎度毎度の奇を衒った登場のしかたは、ハリー・ライム役をぜひ丹波哲郎に演じてほしいと思わないではいられない。若きアリダ・ヴァリが出ているのにも注目。

舞台は全篇ウィーンなので、室内や下水道シーンの一部を除き、ほとんどがウィーン市内で撮影されている。ロケ地情報は、ちょっと前の『pen』[M72-254]のウィーン特集や『映画の中のベルリン、ウィーン』[B654]にも載っているし、ロケ地紹介サイト(LINK)もある。映画に出てくる場所はほとんど今でも残っているようだが、最も魅力的な場所は今のウィーンには残っていない。それは、街のあちこちに残る空襲のあとの廃墟である。非常に魅力的だし、終戦後のウィーンの貴重な記録ともなっている。もっとも廃墟は、たまたまそこにあって映っている、といった形で出てくるのがほとんどで、もう少し積極的に取り入れていたら、当時の時代の空気ももう少し濃厚に写し取れていたのではないかと残念である。

ところで、安いDVDを買ったせいか、日本語字幕がとってもひどかった。一度も見直してないんじゃないかというレベル。最近は、古い映画の廉価版DVDがいろいろ出ているけれど、やはりちゃんとしたものを買わないといけないのではと思った。