実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『夜よ、こんにちは(Buongiorno, Notte)』(Marco Bellocchio)[C2003-30]

2本目はマルコ・ベロッキオ監督の『夜よ、こんにちは』(公式)。移転後のユーロスペースにやっと行った。

1978年、赤い旅団によるアルド・モロ元首相誘拐殺害事件を、監禁場所のアパートを借りるところからモロ元首相の処刑まで描いた映画。事件のドラマティックな部分ではなく、犯人たちの日常をひたすら描いているところがおもしろい。日常生活には二種類あって、ひとつは主人公のキアラが職場で働いたり、親族と会食したりしている事件とは別の生活。もうひとつはアパートでの犯人たちとモロ氏との生活で、そこではモロ氏を取り調べたり手紙を書かせたりといったこともあるが、食事をしたり眠ったりという日常生活が犯人たちにもモロ氏にもある。そういった日常を繰り返しつつ、皆が知っている結末へと向かっていく。その中で映画は、外の世界での事件に対する反応やモロ氏の話などを聞くうちに、キアラが人質の処刑に疑問を抱き、悩む様子を中心に描いている(こういった人物が女性に設定されているところに多少引っ掛かりを感じるのだが)。

キアラ以外の犯人の心情などはほとんど描かれないが、55日にもおよぶ監禁生活によって、犯人とモロ氏のあいだには個人的な心の交流みたいなものもあったはずだ。だけど、モロ氏の死は赤い旅団にとって象徴的な意味をもつし、実は彼ら以上に政権側にとっても象徴的な意味をもつ。そういった個人的感情を越えたところで歴史が動いていく。これという結論を提示する映画ではないが、非常に心を動かされる映画である。

この映画を観て思い出すのは、1978年に作られた西ドイツのオムニバス映画、『秋のドイツ』だ。1977年の西ドイツでのテロに関連して作られた映画で、描こうとしているものはかなり異なるが、時代背景の近さなどからどうしても連想してしまう。私が初めてこの映画を観たのは、たしか初めての東京サミットの直前で、ものすごくぴりぴりした空気が流れていた。そんなこともあって非常に印象に残っているが、9.11後のこの時代にもう一度観直す価値のある映画だと思う。日本最終上映にも行ったので今は上映できないと思うが、ぜひDVD化などしてほしいものだ。