実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『昨日と明日の間』(川島雄三)[C1954-24]

東劇で、川島雄三監督の『昨日と明日の間』(東京フィルメックス)を観る。第12回東京フィルメックスの特集上映「限定!川島パラダイス♪」の一本。

新しい事業を立ち上げるのが趣味の鶴田浩二が、航空会社を作ろうと奔走しながら、淡島千景月丘夢路のあいだを優柔不断にウロウロする話。あるいは、リアルになりそうでならない月丘夢路のエア恋愛物語。井上靖の小説が原作とのことだが未読。

ボーダー柄ワンピースの淡島千景に縞の着物の月丘夢路とか、客船とか飛行機とか、ちょっとモダンな雰囲気が楽しい映画。しかし、前に録画で観たときもヘンな映画だと思ったが、やっぱりどこかヘン。それは、ひとつには展開が唐突だからで、これはわざとそういう編集とかをしていると思う。もうひとつは、淡島千景演じる弾正れい子の妙なキャラクターのせいだ。ブルジョア女性のように見えるのに実はズベ公みたいで、荒っぽい言葉を使ったり仁義を切ったりするが、それが彼女の雰囲気にも映画の雰囲気にも合っていない。また、見た目の軽さに比べて恋愛に妙に真剣で、それも翻訳小説からでも取ってきたかのような不自然な台詞を唐突に吐く。

鶴田浩二月丘夢路淡島千景進藤英太郎大木実大坂志郎片山明彦といった、他社のイメージの強い人ばかり出ている松竹映画。松竹時代の鶴田浩二は、まだ渋くはないが、若くてちょっと青くて身ぶるいするほどハンサム。いっぽう、二代目三羽烏大木実は、青くてやぼったくてぜんぜんぱっとしない。

月丘夢路淡島千景ダブルヒロインは、晩春と麦秋がいっしょに来たような豪華さ(季節的には近いから、いっしょに来てもおかしくないが)。月丘夢路の着物と淡島千景の洋服が象徴するように、かなり対照的なキャラクターだが、上述したように淡島千景のキャラクターがヘンなので、夫がきらいでひたすらエア恋愛に生きる、古風なようで超現代的な月丘夢路に軍配が上がる。きらわれる夫の進藤英太郎がなにげにかわいいキャラなのはちょいと見物である。大人になった突貫小僧が青木富夫の名で松竹映画に出ているのは初めて見たかもしれない。

ところで、鶴田浩二月丘夢路明治神宮に連れて行き、「ここの森は日本中からの献木でできている」と説明するシーンがあるが、そこで「台湾の木、北海道の木…」とか言うのはまずいのではないだろうか。もらったときは「日本中」の一部だったのだろうが、台湾からみたら「今でも植民地だと思ってるのかよ」といちゃもんつけたくなる台詞だと思う。