実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『日本暴力団 組長』(深作欣二)[C1969-37]

シネマヴェーラ渋谷の特集「はぐれ者の美学 追悼 神波史男」(公式)で、深作欣二監督の『日本暴力団 組長』を観る。

  • 大きな組織と組めばコマとして使われ、かといって独立を保って生き残ることも困難、という小さなヤクザ組織の苦悩を描いた映画。山口組(映画では淡野組)の関東進出を背景にした、叙情的実録映画とでもいうべきもの。1969年、鶴田浩二主演というところに、その過渡期的性格が現れている。
  • 設定やストーリーも興味深いが、かなり豪華な男優陣(菅原文太安藤昇若山富三郎内田良平)が、みな主役の鶴田浩二に惹かれ、一瞬にせよラブラブな感じになるのがすばらしく、最初から最後まで萌えまくりの映画。
  • なかでもいちばんアヤしいのが菅原文太。出所する鶴田浩二に「ぴったり合う」スーツを差し入れる。そして(自主的に)鶴田の身代わりに殴り込みに行って殺される。服役中に自殺した鶴田浩二奥さんに対して責任を感じているらしいところも、ふたりのアヤしい関係を裏づけている。
  • 最もロマンチックかつかなり片思いっぽいのが内田良平鶴田浩二も、淡野組との連携を解消するとき、兄弟分の内田良平のことを考えて、ちょっとくらい悩んだり迷ったりしてもよかったんじゃないかと思う。
  • その内田良平は、葬式以外いつも白いスーツでなかなかかっこいい。どちらかというと悪役だが、淡野組と関東連合の手打ち式で、ひとりだけ『君が代』を歌わず、関東連合のボス・河津清三郎が「愛国」的宣誓文を読みはじめると退出するところが超クール。
  • 若山富三郎鶴田浩二への惚れ込みぶりは、ほとんど『緋牡丹博徒』でのお竜さんへの惚れ込みようと同じ。最後に鶴田浩二に電話するところではBGMに『帰らざる日々』をかけてほしくなった。全体としては彼の怖い風貌やキレた雰囲気がすごく生かされていて、それだけに最後のちょっとコミカルなところが効いている。
  • 若山富三郎は、気迫のこもった鶴田浩二との出会いのシーン、殴り込みのような風情でやってきて実は安藤昇のお焼香をするシーン、殺られるところは写さないですごい死に顔を長々と写す最期のシーンなど、とにかく見どころが多かった。
  • 安藤昇鶴田浩二のカラミは少なかったが、一目惚れっぽいシンプルさがよかった。鶴田浩二とあまり絡まないのは奥さん中原早苗がついているからだが、その中原早苗の明らかに『無防備都市』な死に様がよかった。とにかくみんな死に様が印象的な映画だ。
  • 鶴田浩二の組は荷役などをやっている小さな組なのに、鶴田浩二はいつもスーツ。それもヤクザというよりサラリーマンっぽいのがおもしろかった。親分の葬儀のときだけ着物で、次の組長だから当然ではあるのだけれど、スーツだと横に立っている菅原文太のかっこよさに負けるからというのが本当の理由だと思う。