実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『893愚連隊』(中島貞夫)[C1966-51]

シネマヴェーラ渋谷の特集「中島貞夫 狂犬の倫理」(公式)で、『893愚連隊』を観る。

893愚連隊 [DVD]

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愚連隊三代記。中心になるのは、第二世代の松方弘樹荒木一郎、広瀬義宣。「愚連隊は民主主義」と豪語し、稼いだお金は平等に分ける。しかし、やっていることは白タクとか女を騙して売り飛ばすとか、セコいことや酷いことばかり。ヤクザとの争いなどは極力避け、地味にセコく稼ぐ。

第一世代は松方弘樹の元兄貴分・天知茂闇市時代の愚連隊の栄光が忘れられない男。15年も刑務所に入っているあいだに、世の中がすっかり変わってしまったことが十分に理解できていない男。カタギになったかつての仲間の元で更生しようとするが、彼が自分のかつての恋人と結婚し、幸せな家庭を築いていることにショックを受け(健さんならここで「おめでとう」と言うのだが)、松方弘樹の元に転がり込む(しかし15年前に弟分って、松方弘樹は浮浪児かなにかだったんだろうか)。

第三世代は、女の子を誘惑する担当として雇われた浪人生・近藤正臣。『カップルズ』[C1996-13]でいうと張震(チャン・チェン/ジャン・ジェン*)の役回り。張震にははるかに及ばないのに、女性たちが騙される、ワンレンじゃない近藤正臣。こんな時代があったなんて驚きである。

こんなグダグダな愚連隊に、儲け話が転がりこむ。天知茂はこれを最後のシゴトにして足を洗おうとする。殺し屋でもギャングでも、最後のシゴトでは命を落とすのが定石である。近藤正臣はこの話に乗らず、裏切りによってヤクザの世界でのし上がる道を選ぶ。松方弘樹たちは、ヤクザが絡んできた時点でいったん手を引くが、結局ヤクザとの勝負に挑む。

ロマンだけでは生きられないし、ひたすらドライに生きていくのも難しい。そんな、よくいえば共感できる、悪くいえば身につまされる、等身大の愚連隊。勝負には勝ったけれど…という、ハッピーエンドでもない、悲劇でもない、喜劇的なラストがスカッとさわやか。

渡瀬恒彦が出ると青春映画になるのかと思っていたが、出なくても青春映画だった。渡瀬恒彦だってぜんぜんさわやかではないが、 松方弘樹荒木一郎、広瀬義宣なんてさわやかさのカケラもない三人がねちょねちょ生きる話なのに、なぜか終わってみるとさわやか。これって中島貞夫マジックなの? スクリーンでは『日本暗殺記録』[C1969-22]しか観ていなかったわたしにとって、今回の特集はまさに目からウロコである。もしかして『日本暗殺記録』もさわやか青春群像劇?いや、違うよなあ。

映画の舞台が京都というのがまたいい。京都なのに愚連隊。五重塔が見えたりするだけで、観光地に行ったり三十三間堂で対決したりはしないけれど、けっこう街中で撮っている。しかもゲリラ的な撮影らしく、通りすがりの人が「あ、松方弘樹が歩いてる」という感じで振り返っていた。ロケ地探しがしたい。