実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『あゝ同期の桜』(中島貞夫)[C1967-35]

新文芸坐の特集「最後のドン 追悼・岡田茂 東映黄金時代を作った男(チラシ)で、シネマヴェーラで観そびれた中島貞夫監督の『あゝ同期の桜』を観る。

あゝ同期の桜 [DVD]

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最初の学徒動員兵である第十四期飛行専修予備学生が、動員されてから特攻に飛び立つまでの話。タイトルだけ見ると軍隊ノスタルジー映画みたいだが、実際はかなり嫌戦的な映画。嫌戦的な空気というか、しかたない感みたいなものが全体を覆っているのがいい。中島監督がかなりこだわったというラストもいい。

こんな戦争に勝てないことはみんなわかっている。上が止めてくれないから続けるしかない戦争に、しかたなく放り込まれている感じ。上層部は、特攻を続けていくためにみんなのテンションを高く維持しておきたい。そのためには、一度飛び立った兵士に戻ってきたりしてほしくない。飛行機乗りである士官たちは、命中させて特攻の任務を成功させることだけを考える。それはお国のためとかではなく、飛行機乗りとしてのプライドである。

一方、徴兵忌避もできず逃亡もできず、しかたなくここへやってきた十四期生たちは、最初から「死んで貰います」と宣告される。軍国主義に心酔しているような学生はごくわずかで、なんとなくしらけムードのようなものが漂っている。できるだけ死なないように、また無駄に死なないようにと考える一方で、前に進むしかない、特攻に行くしかない、死ぬしかないという、どこにも逃げ場がない状況がある。そこでそれぞれの事情を抱えながら苦悩する姿が切ない。

群像劇だが、実質的な主役は十四期生の松方弘樹千葉真一松方弘樹は軍服も飛行服も似合わない。そしてこの映画の特筆すべきところは、千葉ちゃんがバカっぽくないところである。大げさな演技もしないし、ちゃんと何か考えているようにも見える。

オールスター映画なので、クレジットのトップは鶴田浩二高倉健だったと思う。二人とも飛行機乗りの大尉役で、鶴田浩二は十四期生といっしょに特攻に行く役、健さんは怪我で片目を失って特攻には行けない役。淡々と振る舞う鶴田浩二にイケイケの健さんという感じで、両方ともそれなりに印象を残している。隻眼の健さんはなかなか壮絶な雰囲気で、置いて行かれた飛行機を追いかける桜木健一を止めるところなども、ほんとうは自分が追いかけたいのに止めないといけない悲哀が感じられてよかった。

親子、夫婦、恋人同士などの別れも描かれるが、紋切り型で盛り上げて泣かせるような演出がないのがいい。松方弘樹の母親役に三益愛子まで引っ張りだしているけれど、雨の中での親子の別れは感情を抑えめに静かに進む。千葉ちゃんと藤純子も、直接会わないで手紙で別れて写真を焼く。淡々としているけれど、どのシーンも死というものが静かに重くのしかかっている。

おもしろかったのは、最初に学徒兵が二等兵として訓練を受けるときにそれを担当するのがやまりん(山本麟一)で、学歴コンプレックス丸出しでいじめて兵隊根性を叩き込もうとする。ところが、短い訓練ののちに士官になって配属されると、上官から「けちくさい兵隊根性なんか捨ててしまって、スマートな海軍士官になれ」と訓示されるところ。やまりんなだけに、単に皮肉というより、ちょっと哀愁漂う感じがある。

上映後、中島貞夫監督のトークショーがあった。この映画と岡田茂の話を中心に、ほとんど『遊撃の美学 映画監督中島貞夫』に書いてある内容だったが、はじめてのナマ中島貞夫監督で、直接お話を聞けてよかった。