実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『東京=ソウル=バンコック 実録麻薬地帯』(中島貞夫)[C1973-30]

シネマヴェーラ渋谷の特集「中島貞夫 狂犬の倫理」で、『東京=ソウル=バンコック 実録麻薬地帯』を観る。タイトルで、「麻薬」の上に「覚せい剤」とルビ(?)がふってあったけれど、麻薬と覚醒剤は違うのでは。

千葉真一が、韓国で交通事故死した妹の死の真相をつきとめようと、韓国(釜山、慶州、ソウル)、香港、タイ(バンコク、スコータイ、チェンマイ)と移動するロードムービー(なのか?)。フィルム状態が悪いせいもあると思うけれど、ほとんど説明もなくどんどん移動し、ストーリー展開はかなり唐突。

千葉ちゃんは、『仁義なき戦い 広島死闘篇[C1973-12]あたりを境にキャラクターが変わるが、同年のこの映画ではまだ『カミカゼ野郎 真昼の決斗』のころと同様のコドモな千葉ちゃんだった。元気なだけが取り柄の、明朗で単純な男。いきなり「仁義ひとり旅」と書かれたトラックで、フェリーで韓国入りするのが笑える。

ロケ先の俳優もいろいろ出ているが、有名どころは香港の苗可秀(ノラ・ミャオ)。登場するのは香港ではなくタイの部分で、華人かもしれないけれど、名前はタイ風(パリンダ)。韓国からは金昌淑という女優が出ている。男性陣は、韓国から崔峰、タイからチャイヤ・スリヤン。ふたりともアクションを見せているが、見た目はずんぐりしたおっさん。今だったらもっと韓流スターみたいなのを出してくるのだろうが、当時はそうでもなかったんですね。

苗可秀、金昌淑、崔峰はいちおう日本語が話せる設定だが、苗可秀がタイで話しているのは北京語。チャイヤ・スリヤンはタイ語のみ。したがって、苗可秀とチャイヤ・スリヤンの会話は北京語対タイ語。千葉ちゃんの妹の夫で、頻繁に韓国へ行っている松方弘樹は、金昌淑と話すときはいちおう韓国語。日本語しか話せない千葉ちゃんは、なぜかまわりの外国語の会話を理解しているらしい。…という、気をつかっているんだかいないんだかよくわからない、不思議な言語状況。おまけに全員アフレコらしく、千葉ちゃんと松方弘樹のしゃべり方がなんかヘン。本人の声ではあると思うんだけれど、特に千葉ちゃんはかなり吹き替えっぽいしゃべり方で(いちいち、あーとかうーとか言う)、台詞がやたらと気になってしまう。

半悪役の松方弘樹は役名が「吉岡」だったので、名前が呼ばれるたびに吉田輝雄が出てくるんじゃないかと思った。悪役は天津敏と川谷拓三。チャイヤ・スリヤンの妹が日本人の男に裏切られたという設定で、誰かと思ったら川谷拓三だったのでちょっとあんまりだと思った。せめて天津敏にしてあげてください。

三悪追放協会が製作に絡んでいて、菅原通済が出演しているが、通済さん、ちょっと出過ぎです。小津映画では、台詞も少ないし、もっと若いときだから風貌もちょっとものめずらしくていいけれど、この映画ではただのじいさん。なのに棒読みでたくさんしゃべり、三悪追放の宣伝っぽい台詞まであって苦笑。どうせなら「彼がすべての黒幕でした」というお話だったらおもしろかったのに。