実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『鯨とり ナドヤカンダ(고래사냥)』(裵昶浩)[C1984-45]

新宿K's cinemaの「韓国ニュー・ウェーブ、再発見」(公式)で、裵昶浩(ペ・チャンホ)監督の『鯨とり ナドヤカンダ』を観る。1988年の公開時には観そびれたが、いつか観たいと思ってチラシはちゃんととってあった。中野武蔵野ホール。懐かしいですね。

先日観た『風吹く良き日[C1980-23]から4年。監督が違うので断言はできないが、映画のスタイルや女優の外見が洗練されてきていると感じる。

映画は、安聖基(アン・ソンギ)、金秀哲(キム・スチョル)、李美淑(イ・ミスク)の三人が、ほとんど無一文でソウルから牛島まで旅するロードムービー。金秀哲と安聖基が李美淑を売春宿から救出して故郷へ送り届けるという話で、基本的にはさえない大学生、金秀哲の成長物語。ロードムービーとしては躍動感があって悪くないし、いくつかロングショットの印象的なシーンがあった。直接の社会的、政治的な描写はほとんどないが、一時的に失語症になっている李美淑、インテリの浮浪者である安聖基といった登場人物の設定などに政治的な含意がみられる。

男ふたり、女ひとりの物語といえば、ふつう三角関係のもつれが必須だが、安聖基は女性にも男性にも全く興味を示さない。そのため、金秀哲と李美淑のカップルはずっとラブラブで、安聖基はそこに全く絡まないという妙な構図が最初から最後まで続く。ラブシーンが苦手といってもここまでくるともはやヘンタイの域である。

安聖基は『風吹く良き日』から4年経って、若々しさはほとんど感じられない成熟した域に達している。浮浪者という役、および物語中での役割からやむを得ないとはいえ大げさな演技。おそらく吹き替えと思われる台詞まわしがまた大げさなので、相乗効果でけっこう苦手な感じ。

李美淑は、最近(といっても10年以上前)では『情事』[C1998-43]に出ていた女優さんだ。もろに聖子ちゃんカットでなかなかかわいいけれど、『情事』のほうがきれいだと思う。

かなり田舎である故郷をひたすら目指すというのは、『海をみつめる日』[C1983-44]などを連想させ、台湾でいうと郷土文学の流行とその映画化に対応するのかなとちょっと思った。

ソウルのシーンでは、旧ソウル駅で何度か映る。東京駅と同様、ソウル駅が映る映画なんて大量にあると思うが、たしか同じ裵昶浩監督の『黒水仙[C2001-27]にも出てきたのでちょっと気になった。最後に三人がたどり着く牛島(ウド)というのは、済州島の横のこんなところ。ここでロケしているかどうかはわからないが。



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ところで、盗んだ車がエンコで動かなくなるというシーンがあるが、そこで思わず「エーンーコー生まれーのあさくーさ育ちー♪」と口ずさんだのは、わたしだけではありますまい。