実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『風に吹かれて - キャメラマン李屏賓の肖像(乘著光影旅行)』(姜秀瓊、關本良)[C2009-35]

東京国際映画祭7本めは、同じく六本木ヒルズで姜秀瓊(チアン・シウチュン)監督、關本良(クワン・プンリョン)監督の『風に吹かれて - キャメラマン李屏賓(リー・ピンビン)の肖像』(TIFF紹介ページ)。アジアの風・【台湾電影ルネッサンス2010〜美麗新世代】の一本。

サブタイトルどおり、キャメラマン李屏賓を追ったドキュメンタリー。姜秀瓊は、『牯嶺街少年殺人事件』[C1991-16]張震(チャン・チェン)の二番めのお姉さんを演じていた人。大人になってからは、楊徳昌(エドワード・ヤン)や侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の下で働いていたようで、最近は短篇を撮ったりしている。關本良は、『ホールド・ユー・タイト』[C1997-32]や『2046』[C2004-05]キャメラマン

台湾の麻豆(台南縣麻豆鎭)での、『電姫戯院』(『それぞれのシネマ』[C2007-13])の撮影風景から映画は始まる。2007年末にロケ地探しに行ったところ。映画は、60年代の台北かどこかの都会を再現したロケセットだが、この撮影風景では、実際にわたしが見た麻豆の町も映っている。いきなりこんなところを見せられて、もうそれだけで胸がいっぱい。

映画は、これまでのキャメラマン人生を李屏賓自身が語る映像が中心。彼の外見はこれまで知らなかったが、80年代から中影にいる人なので、ふつうの台湾のおっさんだろうと思っていたら、髭を生やした、いかにもキャメラマンという感じの人だった。語る内容に応じて、撮影を手がけたフィルムが引用され、工夫した点などが語られる。李屏賓が撮った映画には好きなものが多いので、引用されているそれらの映画を観ただけで胸がいっぱいなのに、説明を聞きながら観ることですばらしさを再確認できる。

各作品について語られる内容がまたたいへん興味深い。たとえば侯孝賢の作品は、ほとんど自然光で撮られていていずれも画面は暗めだが、『童年往事 - 時の流れ』[C1985-34]や『恋恋風塵』[C1987-71]はカラーモノクロ映画とでもいうべきものであり、『戯夢人生』[C1993-14]ではこれに対して色を導入し、『フラワーズ・オブ・シャンハイ』[C1998-06]では絹の着物が光を反射する様子まで撮るために撮影用の照明もプラスしたとのこと。

引用されている映画は、『逃亡』[C1984-44]、『童年往事 - 時の流れ』、『恋恋風塵』、『戯夢人生』、『フラワーズ・オブ・シャンハイ』、『花様年華[C2000-05]、『夏至[C2000-25]、『ミレニアム・マンボ』[C2001-10]、『珈琲時光[C2003-18]、『見知らぬ女からの手紙』[C2004-14]、『春の雪』[C2005-18]、『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』[C2007-30]、『言えない秘密』[C2007-34]、『それぞれのシネマ』、『陽もまた昇る』(2007)、『親密』、『メッセージ そして、愛が残る』(2008)、『空気人形』[C2009-08]など。年代順の紹介のほかに、電車などの乗り物シーンを集めた部分が圧巻。ただ、彼の代表作としてははずせない『春の惑い』[C2002-21]がなかったのが残念。

さらに、これらの作品の監督など、いっしょに仕事をした人のインタビューも適宜挿入されている。登場するのは、侯孝賢王家衛(ウォン・カーウァイ)、姚宏易、張艾嘉(シルビア・チャン)、杜篤之、是枝裕和行定勲など。

これらのインタビューのあいだに、撮影や映画祭で世界各地を訪れる李屏賓を追った映像が挿入されている。家はロサンゼルスだが、仕事の拠点は台北なので、台北に戻るたびに訪ねたり、また映画祭にいっしょに行ったりと、彼のおかあさんも頻繁に登場する。マザコン男はきらいだが、おかあさんがすごくチャーミングな人なので、スピーチで彼女への感謝を語ったりするのも感動的に聞けた。

上映後、姜秀瓊監督と關本良監督をゲストにQ&Aが行われ、このドキュメンタリーを撮った経緯などが語られた。10月28日に行われたQ&Aのレポートはこちら(LINK)。監督のインタビューはこちら(LINK)。

この映画はぜったい一般公開して、引用されている映画も特集上映すべきである。