実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『私たちの好きな八月(Aquele Querido Mês de Agosto)』(Miguel Gomes)[C2008-44]

アテネ・フランセ文化センター(公式)の特集「ポルトガル映画マノエル・ド・オリヴェイラポルトガル映画の巨匠たち」で、ミゲル・ゴメス監督の『私たちの好きな八月』を観る。

舞台はポルトガル山間部の村。聖母マリアのお祭りらしきものが行われていて、その期間、夜は音楽フェスティバルが開かれている。そこで何か映画の撮影も行われているらしい。前半は、フェスティバル出演バンドの演奏の合間に、村人と思われる人々へのインタビューと、村の様子が挿入されている。思わず、「あれ? これってドキュメンタリーだったっけ?」と思ってしまう内容で、インタビューされている人々が誰なのかも、彼らのつながりやこの映画での位置づけもわからなくて戸惑う。しかし、バンドが演奏するちょっとノスタルジックな音楽が心地よく、フィックスの映像がとても美しく好みなので、気持ちよく眺めていることができる。

映画はやがて、前半登場したバンドのひとつのメンバーである少女(ソニア・バンデイラ)と、そのまわりの人々にフォーカスしていき、彼女と従兄の少年のひと夏の恋といった話になっていく。そして、前半バラバラにインタビューされていた人々がふたたび登場し、物語のなかにパズルのようにはまっていく。ユニークかつ見事な構成というほかない。

やがてお祭りは終わり、村に集まっていた観光客や親戚たちは去り、少年と少女も別れのときを迎える。観終わって心に残るのは、夏が終わっていくときの切ない感じである。実際は数日程度の話であり、そのあいだに季節が移ろっていくわけではないけれども、おそらくこの村の人々にとって、お祭りの終わりは夏の終わりである。お祭りの賑わいが静けさに変わる瞬間が、夏の終わりとリンクして心をとらえる。

映画のなかで歌われている“Meu Querido Mês de Agosto”という歌も、その感じにマッチしている。陽気なメロディで始まって、短調の切ないメロディに移行し、それらが交互に繰り返される。王道的なパターンだけど、この映画にほんとうに合っている。ほかにも“Morrer de Amor”という歌とか、音楽がとてもよくて、サントラがほしくなる映画。

冒頭、バンドの演奏を聴きながら、ちょっとした広場みたいなところで人々が踊りはじめる素敵なシーンがある。無人だった広場が多くのカップルで埋まっていくのが長回しで撮られているあいだ、同じ青年が何度も何度も横切るのだけれど、あれは何だったんだろう。