実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『PLASTIC CITY プラスティック・シティ(蕩寇)』(余力爲)[C2008-21]

風邪で不調ななか、朝から出京。ヒューマントラストシネマ渋谷とかいう怪しげな名前に変わった旧アミューズCQNへ、余力爲(ユー・リクウァイ)監督の新作、『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』を観に行く。

愛と死と、憎悪が渦巻くプラスティック・シティ、サン・パウロ。東洋人街を仕切るボスとその子分、コピー商品市場の覇権争い、裏切りと罠、美女とダンス、そしてアクション。これだけで十分おもしろいが、父と子の愛憎というテーマが物語を貫く。『ブライヅヘッドふたたび』[B850]に、こんな一文があった。「自分で財産を作った男というものには、どうして最初の一万ポンドを手に入れたかという謎がいつも付き纏っている。(p. 281)」 これは、その最初の一万ポンド(レアル)をめぐる物語でもある。

主演はオダギリジョーと黃秋生(アンソニー・ウォン)。オダギリジョーは、目下、ポスト浅野忠信というべき位置にあるといえるだろう。海外で活躍する俳優は増えているが、ハリウッドや大作合作映画に出る人には興味がない。このふたりは映画の選択がいい、というかいい監督から選ばれているので、今後もがんばってほしいと思う(いずれも特にファンではないが)。黃秋生は、日本が絡む映画、日本で公開される映画への出演がなぜだか多い。しかも、すっかり父親役が定着したようだ。あと、すっかりオッサン化した陳昭榮(チェン・チャオロン)が出ていた。最近別の映画でも彼を見かけて、同じ感想をもったような気がするのだが、なんの映画か思い出せない。

余力爲といえば、越境する人々と、彼らの心情を映すような、独特の空気感をもった映像。この作品では、ゴールド・ラッシュではるばるブラジルまでやって来た香港人(黃秋生は北京語を話しているが、テレビ・ニュースか何かでの名前のアルファベット表記が広東語だったので、おそらく香港人なんだと思う)や日本人が描かれる。緑深いジャングルと、殺風景な近代都市。その猥雑な街のネオンがまた、ジャングルの原色のイメージへと繋がっていく。余力爲の魅力は健在だ。印象に残っているのは、オダギリジョーと黃奕(ホァン・イー)が車の中で話しているのを正面からとらえたショットで、急に降り出した雨がみるみる強まって、ふたりが見えなくなっていくところ。

舞台となるジャングルは、冒頭で地名への言及があったような気もするが忘れてしまった。80年代のゴールド・ラッシュ、国境、河というキーワードからすると、ボリビア国境、アマゾンの支流マデイラ川だろうか。

そのほか特筆すべきこととしては、ブラジルの刑務所でも赤いキモノを着ていた。余力爲はインタビューで鈴木清順に言及していたが、まさか『関東無宿[C1963-07]へのオマージュか。そういえばこの映画は、黃秋生が赤きキモノを着て、それから白きキモノを着る物語である。

賈樟柯(ジャ・ジャンクー)の『四川のうた』も入った、半野喜弘によるサントラを買って帰る。

24 CITY & PLASTIC CITY

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