実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『牡牛座 レーニンの肖像(Телец)』(Aleksandr Sokurov)[C2001-34]

ユーロスペース(公式)の特集「フィルム傑作選ソクーロフ」で、アレクサンドル・ソクーロフ監督の『牡牛座 レーニンの肖像』を観る。

アレクサンドル・ソクーロフ DVD-BOX 3

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モスクワ郊外のゴールキ村で静養中の、晩年のレーニンの一日を描いたもの。解説によれば1922年、レーニンが亡くなる2年前とのこと。予告篇で「ロケ地はすべて本物」と言っていたので、実際にレーニンが過ごしていた屋敷なのだろう。モスクワに近いとは思えないほど田舎の、おそらく没収した貴族の別荘か何かだと思われる豪華な建物が舞台。

とにかく映像が美しい。フィルタをかけているのだと思うが、屋外のシーンは常に霧がかかったようなぼんやりした映像で、緑がとても美しい。そこに時おり陽が射すと、木洩れ日がえも言われぬ美しさ。

そんな美しい映像で描かれるのは、脳梗塞で右半身が麻痺した、気の毒なレーニンの日常。まだ52歳とは思えない、老けた外見。政治から遠ざけられ、死ぬのを待つしかない日々。しかし妻と森へピクニックに行ったりしているときは、平和な老後のようにも見える。彼の世話をしているのは、妻と妹を除いてすべてスターリンの手先らしく、レーニンに対する尊敬の念といったものがまるで感じられず、ボケ老人を扱うような態度が切ない。レーニンは、病気のせいなのか、認知症なのか、時々おかしなことを言う。まともなときは、訪ねてきたスターリン人道主義を要求したり、国民が飢えているのに豪華な屋敷で豪華な食事をしていることに苛立ったりする。かと思えば、スターリンのことを「あいつは誰だ?」と言ったりする。「誰があんなやつを選んだんだ?」と問うレーニンに対して、「兄さんも賛成した」と答える妹が容赦ない。

年を取ると、頭の病気とか、認知症とか、病気の副作用とかでアタマがぼけることが多い。そうすると、たとえば親子の関係は逆転せざるを得ない。子供に対するような態度で親に対している人をよく見かけるが、あのようにできるようになるまではなかなかたいへんだと思う。時々正常になったりすればなおさらである。わたしはできなかった。レーニンの場合も妻や妹は子供扱いはしていなくて、逆に妹は「兄さんはいつも自分勝手だった」などと断罪。いつも言いたいことを言っていたのか、病気に乗じて長年の不満をぶつけているのか不明だが、かなり容赦なかった。もちろんレーニンの症状は一般国民には知らされなかっただろうけれど、彼のような国の指導者の場合、親子だけでなく、国民との関係も逆転せざるを得ないと思い、なにかやるせないものを感じた。