シネマート六本木のAQFF2011(公式)、三つめのプログラムは、張凡夕(フランソワ・チャン)監督の『花と眉』。三組のカップルまたはグループの恋愛模様を、登場人物を微妙に絡ませながら並行的に描いたもの。
一組めは、シングルマザーの肖雅(肖雅)と友人の従弟の劉叢(劉叢)の男女カップル。肖雅は連日の花束のプレゼントによって劉叢に惹かれるようになり、やがて別れを決意する。赤い花模様の壁紙とか、レトロな化粧道具とか、ぴったりしたワンピースとか、むせかえるような花の香りとか、レトロで耽美な世界が炸裂。この話はのちに現実のものではないことがわかるので、レトロな雰囲気にもそれなりに理由はある。
しかし、耽美な世界には必須だと思われる、美しい男女が欠けている。肖雅は顔をちゃんと見ればわりとかわいいけれど、下ぶくれでパッと見のシルエットが林真理子かなんかみたいなのがいただけない。劉叢は張學友(ジャッキー・チュン)と周杰倫(ジェイ・チョウ)を足したような顔で耽美のカケラもない。
二組めは、学生の貝司(貝司)とサラリーマンの梁青(梁宸)のゲイカップル。貝司は、前から好きだった梁青と再会したのでつき合っていた男を捨て、梁青もボーイフレンドとうまくいかなくなって貝司の家に転がり込むが、前の男を忘れられずに苦悩し、やがて貝司を遠ざけるようになる。ここでは特別ドラマチックな出来事もなく、同性、異性にかかわらずどんなカップルも経験するような感情がきめ細やかに描かれ、彼らの心のゆれがしっかりこちらに伝わってくる。監督がいちばん描きたかったのはこのパートに違いなく、セックスシーンも必要以上に(?)リアルでハード。
貝司は、マッチョで濃い顔の、ある意味ゲイのステレオタイプ的な男性で、一般的にいえばイケメンなのだろうが、わたしはあまり好みではない。一方の梁宸は梁朝偉(トニー・レオン)風の優男で、こちらもイケメン。わたしはこっちのほうが好み。一般的なイメージからいえば、梁青のほうが追う側のように思われるが、マッチョな貝司のほうが一途に思う側なのがおもしろい。
三組めは、フランス語学校のクラスメートのヤスミン(禪嬋)、ルル(蕭寒)、フランソワ(張凡夕)の女2、男1のグループ。フランソワはヤスミンに目をつけるが、ヤスミンはルルと惹かれあうという話なのだが、他の二組に比べて割かれている時間が明らかに短い。いったいあの人たちはどうなったんだろうと思ったころにいきなりドラマチックな展開が用意されているが、ほかの話とつなぐためだけにあるという感じが否めない。
思うに、監督が描きたかったのはゲイカップルの話であり、一方でビジュアル的にレトロで耽美な世界も表現したかった。また大学の卒業制作らしいので、同性愛だけを描くのも都合が悪かった。したがってこのような形にまとめることにしたものの、雰囲気をはじめとして整合性がとれていないし、興味の大小によって力の入れ具合が明らかに異なっている。やはりゲイカップルの話を中心にすえてじっくり描くべきだったのではないか。
クロースアップが多用され、それも顔ではなく足などのからだの一部をやたらと映したりする。断片的なショットやらスローモーションやら、全体的にやたらと思わせぶりで、わたしはあまり好きではない。セックスシーンをシンクロさせたりしているのも、思いつき以外のものは感じられない。梅林茂みたいな音楽とか、レトロな赤い画面とか、エピソードを並行して描くところとか、この監督はきっと王家衛(ウォン・カーウァイ)が好きなんだろうと思う。しかし、悪いところばかり真似ているというか、悪いように真似ているというか、少なくとも王家衛好きをくすぐるような真似のしかたではない。