実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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「短編集B〜僕の想いは…」

シネマート六本木のAQFF2011(公式)のふたつめのプログラムは、「短編集B〜僕の想いは…」で短篇5本。

1本めは、デイブ・スナイダー(Dave Snyder)監督の『プレイネーム(Play Name)』[C2009-S]バンコクを舞台に、タイ人の青年ポンとアメリカ人の青年ジェームズの出会いと別れを描いたもの。

積極的にジェームズに近づくポンは、一見よくある西洋崇拝のように見えて、実はジェームズに閉塞的な社会から連れ出してくれる可能性をみている。一方ジェームズは、ポンからみれば自由の国の人だが、おそらくふだんはゲイであることを隠してエリートの暮らしをしている。旅先での気軽なアバンチュールを求めている彼は、深く踏み込んできそうなポンにおそれをなして逃げるけれど、それはおそらく、妥協して納得しているつもりの自分の生き方が揺らぐことに対するおそれでもあるのだろう。イケメンでエリートっぽいジェームズと、ポンのつたない英語や知識の乏しさとの対比はちょっとイヤな感じがするけれども、ポンがジェームズの仕事や国を単純に褒めるたびに、いたたまれなくなっていくのはジェームズのほうである。短い物語のなかに、西洋対東洋とか、進歩的な国対保守的な国といった単純な構図ではない様々な問題が描かれていて興味深い。

ポンが水前寺清子みたいなので苦手感が先に立つが、だんだん彼のひたむきさに惹きつけられるようになる。ところで、タイ人にはプレイネームという内輪の呼び名みたいなものがあるというのは初めて知った。

2本めは、イ・ソンミン(Yi Sung-Min)監督の『愛の価値(Love is Worth It)』[C2009-S]。ゲイであるとカミングアウトしたために軍を回顧された韓国系アメリカ人のダン・チョイ中尉を描いたドキュメンタリー。米軍の同性愛者軍務禁止規定の撤廃と軍への復帰を求めて精力的に活動する彼の一日を追ったもの。

3本めは、レイド・ワタラー(Reid Waterer)監督の『スパイス・ラブ(You Can't Curry Love)』[C2009-S]。おそらくインド生まれだが、オーストラリア国籍でロンドンで働いているヴィカスが、仕事でインドを訪れてインド人青年スニルと恋に落ち、彼を通じてインドを再発見するという話。西洋での生活が長い人が西洋化してしまって、母国の文化や習慣に否定的になるというのはよくある話だと思うが、そういう人の葛藤とか、母国の人との認識のずれとかいったものは、意外とこれまで描かれていなかったような気がする。この映画では特に、ヴィカスが西洋化しているのをそんなに否定的に捉えているわけではなく、どちらがいいというわけではなくいろいろな価値観を知っていくみたいなところが興味深かった。

また、ヴィカスの上司トムがすごくユニーク。ヴィカスがゲイであると知らずに、気軽な男同士のつもりで無邪気にいろんなことを言ったりしたりしているという設定だと思うけれど、仕事でヴィカスを抜擢しようとするときの誘い文句が「もっと俺のハダカを見てみないか」って、なんだそれ。最後にサービスっぽい感じでダンスシーンがあるのも楽しい。

4本めは、陳子謙(ロイストン・タン)監督の『アニバーサリー(Anniversary)』[C2009-S](公式(英語))。このプログラムを観たのは、もちろんこれが目当て。『4:30(フォーサーティ)』[C2005-29]でなにげにゲイのかほりを漂わせていた陳子謙が、初めてゲイを真っ向から扱った作品とのこと。

主人公は、もうすぐ一周年を迎えるワイキット(Kelvin Ong)とジャスティン(Shane Mardjuki)のゲイカップル。ワイキットが自分がHIVに感染しているかもしれないと知り、苦悩した末にジャスティンの元を去って検査を受けるという話。ワイキットの後悔とかジャスティンに対する劣等感とか、理由も告げずにワイキットに去られたジャスティンの動揺とか、いろんな心のゆれがすごく伝わってくる映画。

ACTION FOR AIDSという組織が提供しているので、「エイズ検査を受けましょう」キャンペーンみたいなもののための映画ではないかと思う。

5本めは、マイケル・カム(Michael Kam)監督の『マサラ・ママ(Masala Mama)』[C2010-S]。これもシンガポールが舞台で、中国系の少年と、ゲイのインド系の雑貨店店主との交流を描いたもの。いまではこういったお店はほぼ全滅したとのことなので、ひとむかし前のシンガポールを描いたものなのかもしれない。突然ヒーローものになったりして楽しいけれど、少年の父親の差別的な発言などが生々しい。

どうしてインド系のお店に行くのかなと思いながら観ていたが、コミック雑誌などを置いているのはインド系のお店だったりするのだろうか。記憶が定かではないが、シンガポールだかマレーシアだかで見たことがある気がするけれど、派手な表紙の雑誌が並ぶキオスクみたいな店は、なぜかみんなインド系だと思った記憶がある。