実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『12Lotus(十二蓮花)』(陳子謙)[C2008-50]

シネマート六本木のSintok2012シンガポール映画祭(公式)で、陳子謙(ロイストン・タン)監督の『12Lotus』を観る。

  • 歌台(ゲータイ)のスターになった貧しい少女・蓮花の薄幸な生涯を、“十二蓮花”という福建語歌謡に乗せて描く歌謡映画。ラストの救いのなさがすばらしい。
  • 父親に体罰によって歌を仕込まれた蓮花は、彼の「痛みのない愛はない、愛には痛みが伴う」という言葉を信じることでその辛さに耐える。この言葉は座右の銘のごとく彼女にすり込まれ、何度も愛を求めて痛みに耐えるのだが、その先に愛はない。彼女を不幸に死なせたのは、結局のところ虚構に満ちたこの言葉なのだ。
  • 陳子謙監督の映画はこれで4本めだが、すべてに共通するのは教育問題、シンガポールの教育に対する問題提起である。家庭や学校での体罰やネグレクト、それによって傷つく子供たちが繰り返し描かれ、幼い頃からエリートを選抜して落ちこぼれを切り捨てるシンガポールの教育体制への批判的な視線が感じられる。
  • キャストは、若いころの蓮花に王欣(ミンディー・オン)、少し歳をとった蓮花に劉玲玲(リウ・リンリン*)、彼女に災いをもたらす男(二役)に戚玉武(チー・ユーウー*)と、前作『881 歌え!パパイヤ』と同様の顔ぶれ。楊雁雁(ヤオ・ヤンヤン)もチョイ役で出演している。
  • 『881 歌え!パパイヤ』の感想に「ちょいといい男」と書いた戚玉武は、今回はモロに色男役。顔が似ているわけではないが、ハンサムだけどちょっと目が小さくてあまり派手な顔ではないところや、オールバックや首にスカーフをまいたファッションなど、若いころの写真で見たことのあるスタイルから、小林旭を彷彿させて楽しかった。もちろん今回の役(のひとつ)が歌台のスターであり、歌う役だというのも大きいと思う。
  • 蓮花がしきりに食べていた蘇打餅(ソーダクラッカー)がやたらおいしそう、というか、缶に入っているのがレトロでものすごくソソられた。でも食べ過ぎると王欣でさえ劉玲玲になってしまうから、もともと王欣にはるかに及ばない者としては怖くて手が出せない。
  • 子役の蓮花が歌台デビューして歌うシーンで、派手な作り笑顔で大人の歌をすごくうまく歌っていて、「げっ、さくらまやかよ」と思ったが、すぐに王欣に移行したので安心した。