Meal MUJIで晩ごはんを食べて、今日の3本めは特別招待作品で婁�(ロウ・イエ)監督の『春風沈酔の夜』。フィルメックスの公式サイト等には原題が“春風�醉的晚上”と書かれているが、引用されている郁達夫の小説のタイトルが“春風�醉的晚上”、映画のタイトルは“春風�醉的夜晚”のようだ。婁�といえば『天安門、恋人たち(頤和園)』[C2006-46]で5年間の製作禁止処分を受けているが、「地下映画」なら構わないということで、果敢に新作を撮っていて天晴れ。第五世代ではいちばん変節せずにがんばっている田壯壯(ティエン・チュアンチュアン)が、禁止処分をまじめに守ってそのあと出世した(違うかもしれないけれどそう見えた)のとは大分違う。
『春風沈酔の夜』は、南京を舞台に、5人の男女の絡みあい、移ろいゆく関係を描いたもの。ゲイの青年、江城(検索すると、江城、江成、姜城、程江など諸説あるが、クレジットが江城だったような気がするのでとりあえずこれにしておく)(秦昊)を中心に、ふたつの三角関係が描かれる。ひとつめは、江城と、彼の恋人(男)の王平(吳偉)と、その妻・林雪(きれいな人なのにこの名前は笑える)(江佳奇)。この関係は、林雪がふたりの関係を認めないため崩壊し、王平は自殺する。ふたつめは、江城と、林雪に頼まれて王平を尾行していた青年・羅海濤(陳思成)と、彼の恋人・李靜(譚卓)。羅海濤は江城に興味をもって近づき、関係をもつが、李靜はふたりの関係を知りつつ三人で旅をする。しかし、やがてその関係も終わる。江城を中心とする輪のなかに、ほかの4人が入っては抜けていく物語と言ってもいい。
最後、自分の店を持ち、新しい家(前のよりレベルダウンしているが)に新しい恋人と住んでいる江城が、ふっと王平が“春風�醉的晚上”を朗読したときのことを思い出すところがいい。今でも王平を忘れられないというわけではなく、今の生活にそれなりに満足もしている。それでも、あるとき突然よみがえり、心をとらえる過去の愛の思い出とその喪失感。誰にでも訪れるそういう瞬間が、印象的に描かれている。
揺れる手持ちカメラでクロース・アップと長回しを多用し、微妙な関係にある登場人物の心のゆれをリアルにとらえている。全体のダークなトーンと、鮮やな木々の緑と、雨が印象的。暖かさを感じさせつつ不安を煽るような、独特の春の空気が映画を満たしている。
主演の秦昊は、張震(チャン・チェン)にちょっと劉徳華(アンディ・ラウ)を混ぜたような雰囲気。譚卓は�蕾(ハオ・レイ)に似ていると思ったが、実際‘小�蕾’と書かれている記事をいくつか見た。
これで南京へも行かなくてはならなくなった。江城と羅海濤と李靜が旅に出るときに渡る、社会主義リアリズムの装飾が気になる橋は、南京長江大橋だろうか。
映画中で歌われる歌は、周杰倫(ジェイ・チョウ)の“迷迭香”、范��(ファン・ウェイチー)朴樹(プー・シュー)の“那些花兒”など(范��はたぶんカヴァー)。また、江城の部屋で音楽に合わせて踊る羅海濤は、明らかに『欲望の翼』[C1990-36]の張國榮(レスリー・チャン)の真似をしていると思う。
上映後は婁�監督をゲストにQ&Aがあった。婁�監督は見た目がチンピラっぽい。Q&Aの内容は、フィルメックスのデイリーニュース(LINK)を参照のこと。水曜シネマ塾でのトークも載っている(LINK)。