神保町へ移動。今週も神保町シアターで森雅之。1964年、日活映画『帰郷』。
監督は西河克己。西河克己といえば、アイドル、文芸、リメイク。『帰郷』もちゃんと三拍子揃っている。アイドルは吉永小百合(がっかり)、原作は大佛次郎。1950年の大庭秀雄監督作品のリメイク。
大庭秀雄の『帰郷』[C1950-09]はけっこう有名だが、こちらは存在も知らなかった。佐分利信がやっていた役を森雅之がやっている。佐分利信と森雅之といえば、戦後の「おじさま」の双璧だ。同時代(60年代)の話にするため、シンガポールと太平洋戦争は、ハバナとキューバ革命に置き換えられている。舞台は、革命が進行しつつあるキューバと1964年の東京。単なるキューバつながりだと思っていたのが、出てくる年も『チェ 28歳の革命』と同じというのは奇遇だった。
映画はいきなりハバナのクラブから映画は始まるのだけれど、「え?これがハバナのクラブですか? それも革命前の?」と失笑せざるを得ない。当時の映画にはありがちだが、音楽も、とりあえずラテンっぽければいいでしょうみたいな感じで思いっきり手抜き。今だったら美術と音楽が腕の見せどころなのだろうが。
戦中のあの時代に、海軍を追われた男の家族がどれだけ生き辛かったか、日本占領下のシンガポールで女がひとりで生きていくのがどれだけ大変だったか。そういった切実さに比べて、キューバという設定はいかにも他人事でありそらぞらしい。キューバ革命のために公金を横領した森雅之も、国から見れば犯罪人だが、多くの人にとってはヒーローに映るだろう。
佐分利信と木暮実千代を中心に据えた大庭秀雄版とは異なり、こちらはあくまでアイドル映画だから、森雅之の娘である吉永小百合が中心である。木暮実千代の役は渡辺美佐子になってしまっているので、扱いも小さいし、最初からいかにも裏切りそうだ。吉永小百合の義父役は芦田伸介で、娘からけっこう慕われているのと、最後が家族団欒っぽく終わるのとで、ヤな奴ぶりが中途半端でいけない。
結局のところ、設定に切実さがないのと、吉永小百合が場違いな感じなのとで、大庭秀雄版にははるかに及ばない、凡庸な映画になってしまっている。キューバ(もちろんロケはしていない)と奈良(こちらはロケもしている)が舞台なのが、とりあえず特筆すべき点か。
久しぶりにエチオピアで野菜カリーを食べて帰る。