りんごのトルタを食べながら、オリジナルの『帰郷』を観る。
大庭秀雄と豊田四郎は、わたしにとって、特徴がよくわからない、ソツはないがいまひとつ魅力に欠ける文芸映画を撮る監督というイメージである。しかし『帰郷』はなかなか見ごたえがあり、けっこう好きだ。原作を読んでいないのがいいのかもしれない。
まず主演が佐分利信と木暮実千代なのがいい。言うまでもなく『お茶漬の味』[C1952-06]コンビである。『お茶漬の味』ではちゃぶ台をはさんでお茶漬を食べていたのに、こちらはシンガポールでギャンブルである。「マダム、抱いてもいいかね」である。うひょー。シンガポールがらみなところまで『お茶漬の味』と同じだ。ついでに言うと、佐分利信の娘役の津島恵子もお茶漬組である。
津島恵子の義父は山村聰。山村聰といえば『舞姫』[C1951-03]。あの川端的イヤらしい中年男が、彼のイメージを決定づけている。さらに『宗方姉妹』[C1950-07]でも、同じようなイヤな男を演じている。そしてこれ。『帰郷』1950年、『宗方姉妹』1950年、『舞姫』1951年と年代もほぼ同じ。このころの山村聰は、文芸モノのイヤな中年男専門俳優だったわけだ。
そのほか、徳大寺伸、日守新一、三井弘次も出ていて超豪華。J先生げきよろこび。戦前の松竹映画の残り香という感じがする。
もちろんロケはしていないが、上述のように冒頭の舞台はシンガポール。木暮実千代を紹介するのに、「昭南で飲み屋をやっている」という台詞がある。今これを聞いてすぐにわかる人がどれくらいいるんだろうか。「え?茅ヶ崎?」とか思ってしまう人がけっこういるかも。