バンガロールに来ちゃったの

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『慟哭』(佐分利信)[C1952-20]

フィルムセンターの特集「よみがえる日本映画」(公式)で、佐分利信監督の『慟哭』を観る。

妻を亡くした劇作家の佐分利信が、劇団の研究生の阿部寿美子に惹かれ、彼女をヒロインにした新作を書こうとする話。阿部寿美子は、劇作家に取り入ってのし上がろうというよりは、佐分利信自身に惹かれている恋愛優先モード。それに対して佐分利信は、若い娘を創作の栄養にしてスランプを脱したいという仕事優先モード。したがって両者の思惑はすれ違い、悲劇を迎える。

佐分利信のほうに、若い娘を育ててあげる、女優として成長させてあげるという中年男の余裕がぜんぜんないのだが、それを納得させるには、研究生役にそれだけの魅力が必須である。ところが、この阿部寿美子という女優は、そんなにきれいでもないし、弾ける若さがまぶしいというわけでもないし、特別個性的でもない。ライバルの木暮実千代の妖艶な魅力にもぜんぜん対抗できていない。それでは2時間もたない。だから最後のほうのウダウダな展開にはけっこううんざり(ちょうどそのあたりで地震)。酔って三橋達也と寝ちゃったりしても、そんなことは何でもなくしてあげるのが中年男の包容力と余裕のはずなのに、「あんたが慟哭してどうするよ?」と思ってしまった。

戦前は朴訥な二枚目、戦後は重役やボスなどの渋い大物が当たり役だった佐分利信だが、自分の監督作では女に捨てられるような役を好んで演っているのはマゾなのか。それとも俳優としてチャレンジングだと思う役を選んでいるのだろうか。

映画全体の雰囲気はなかなかモダンである。佐分利信の家、劇団、阿部寿美子の実家近くの温泉、木暮実千代の家、三橋達也のアパートなどが出てくるが、それぞれ独特の空気感をもっていて忘れがたい。断定できないが、佐分利の家の最寄駅は北鎌倉だったように思う。この佐分利の家とそのまわりの環境が特にいい感じ。

ヒロインの物足りなさに比べ、脇役は豪華。新東宝映画だが、笠智衆、吉川満子、三宅邦子と、佐分利信の人脈だと思われる松竹系俳優が出演。なかでも特筆すべきは徳大寺伸。出番は少ないが、まだ若いしね。