実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『台湾を考えるむずかしさ』(松永正義)[B1302]

『台湾を考えるむずかしさ』読了。

台湾を考えるむずかしさ (研文選書)

台湾を考えるむずかしさ (研文選書)

すごくおもしろかった。台湾に関して日ごろ気になっていた点に対し、示唆を与えてくれる本。台湾に興味のある方は(F4の追っかけの人とかも)ぜひ読まれたい。

内容は、これまでに書かれた論文を集めたもので、『台湾文学のおもしろさ』[B1149]と対をなすもの。こういった本の常として、書き下ろしの「台湾を考えるむずかしさ -序にかえて-」がいちばんおもしろい。これは、次のような文章で始まる。

 台湾というところは複雑なところなのだから、あまり単純にものを考えないことが大事だと思う。たとえば台湾は一貫して外来政権の支配下にあったとか、台湾は一貫して植民地であったとかいう言いかたがある。これは大雑把にいえばそう言えるかもしれない。しかし外来政権と言うときの外来性のありかたや、植民地と言うときにその内実の意味するところは大きく異なっているのだから、それをあまりに単純化して考えると、事の本質を見失うのではないかと思う。(p. 5)

これにつづき、清朝時代から日本時代を中心に、台湾がどういう社会だったかが語られている。そのなかで、なるほどと思わされたのは次のような点である。

  • 清朝三百年間を通して台湾は中国になった。
  • 日本時代のナショナリズムは、台湾と中国とに二重化していており、両者は必ずしも敵対的な関係にあったわけではなかった。

それから「中国」とは何かについて。

  • 多元的な中国社会を統合しているものは、古典的文化構造と近代ナショナリズムである。
  • 古典的文化構造とは漢字を中核とする文化であり、漢字による書きことばを共通のことばとして統合してきた背景にあるのは科挙である。

最後のほうには、次のように書かれている。わたしは台湾研究者ではないけれども、心に留めておきたい言葉である。

 台湾とはなにかという問いはまた、中国とはなにかという問いを抜きには考えられないし、とりわけ日本で研究を行うものにとっては、それは日本とはなにかという問いにもつながるものだ。日本で研究するものにとっては、この三つの問いを重ねる形でしか、台湾研究はありえないと思う。ここに台湾研究のむずかしさとおもしろさとがある。(p. 25)

本篇は4つのパートに分かれている。第一部は台湾の言語について、第二部は台湾文学について、第三部は台湾と中国と日本について、第四部は日本における台湾イメージの形成について。台湾文学についてはやや専門家向けに思えたが、あとはどれもおもしろかった。引用したり内容をまとめたりしておきたいところはたくさんあるが、なるほどと思ったところを、あと二点ほど引用しておく。

 いまの台湾の動きのなかには、先に述べたような十九世紀的な意味での国民国家形成のプロセスをたどるような部分がある。しかしながら四大エスニック・グループの融和がなければ国家統合さえ困難となることから、多元社会の追求という二一世紀的な課題をも引き受けざるを得ない。十九世紀的なプロセスと二一世紀的な課題が混在しているところに、いまの台湾のおもしろさ、あるいは複雑さがあり、言語をめぐる状況はそうした問題を端的に示すものであるように思われる。……(「台湾言語事情札記」pp. 91-92)

 中華思想とは何か。第一にそれは武という合目的的な原理によって征服するのではなく、文という倫理的な原理によって化するものである。第二に華夷の別はその文化の保有と否とに関わるものであって、国境、人種その他によるものではない。したがって第三に、その世界は征服によって拡大する「限り」を意識された世界ではなく、異民族の文化への同化によって無限に同円心状に広がってゆくものである。第四に文化への同化を問題とし人種その他を問わない構造は、表面的には異民族への寛容であるが、現実には同化しえない異民族への全的な差別の構造である。こうして文化への同化という表面上の寛容と現実的な差別の構造を持ちながら同心円上(ママ)に広がってゆくもの、同心円の中央にあるとされる「文化」へ近づいてゆくか、そこから離れるかを目安とする差別の構造、それこそ天皇制による植民地支配と呼ばれるものでなくて何であろう。(『台湾領有論の系譜』pp. 259-260)

ところで台湾といえばバナナだが、今日は世界から(たぶん日本からだけだとは思うが)バナナが消えていた。そのうち世界中のバナナが日本へ運ばれて、今度は汚染バナナ問題とかが起きて、誰もバナナを買わなくなって、世界中から大顰蹙を買ったりするようになるかもしれない。