実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『風と共に散る(Written on the Wind)』(Douglas Sirk)[C1956-32]

今日はぴあフィルムフェスティバル(公式)のダグラス・サーク特集で、渋谷東急へ行く。PFFに行くのはかなり久しぶりで、王小帥(ワン・シャオシュアイ)以来かもしれない。指定席ではなく整理券順入場なのがうっとおしかったが、キャンセル待ち当日券を用意するなど、一人でも多くの観客に観てもらおうとしている姿勢に好感がもてる。見習えよ、東京国際映画祭

『人生の幻影』[C1984-20]を観て以来、ずっと気になっていたダグラス・サーク。その後観ることができたのはスイスで撮った『アコード・ファイナル』[C1938-14]のみ。今回PFFで特集上映されるということで、残念ながら今日しか観られないけれど、メロドラマ3本に駆けつける。その一本めは『風と共に散る』(映画生活/goo映画)。

まず、人気のない道路を黄色いスポーツカーが爆走するオープニングに目を奪われる。異様なほど風が吹いていて、車の主が屋敷に到着して玄関のドアを開けると、ざざざっーと枯葉が家の中に入っていって舞っているのにも。

石油成金の御曹司であるロバート・スタック(Robert Stack)、その「ご学友」として望まれ、一緒に育ったロック・ハドソン(Rock Hudson)。ロバート・スタックに見初められて妻になるローレン・バコール(Lauren Bacall)。ロバート・スタックの妹でロック・ハドソンに憧れるドロシー・マローン(Dorothy Malone)。この4人が織りなすメロドラマ。『アコード・ファイナル』でも感じたけれど、全く無駄がなくてよくできている。

優秀で社長の信頼も厚い親友への羨望や嫉妬、プレッシャーから逃れるためのアルコール依存や自殺願望、子供ができないことに単を発した絶望と疑念。メロドラマ的外観のなかに、個人が抱える様々な問題がうまくからみあっており、特殊な背景や異なる時代にもかかわらず、それらはほとんどそのまま現代にも通じる。健全で屈託がないように見えたロック・ハドソンもまた、屈折を抱えていることが次第に明らかになり、それが最後にうまく生かされている。思えば、石油成金一家に支配されているといっていい小さな街の、何かあればみんなが一家の側についてしまう歪んだ雰囲気が、最初から映画に不安な影を落としている。

この映画で特筆すべきはやはりローレン・バコールアメリカの女優ではローレン・バコールがいちばん好きだ。『三つ数えろ[C1946-01]から10年。さすがにあの神秘的な美しさはもうなく、30過ぎで独身〜新妻という想定は多少苦しくもあるが、やっぱりかっこいい。キャリアウーマンからお金持ちの奥様へ、すーっと移行してしまうシックさも、最初のほうで足だけ見えるところも。スチルでは何度も見た、ローレン・バコールが手で顔を覆うショットの本物をやっと観られて満足だ。