実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ラスト、コーション 色・戒』(張愛玲)[B1264]

「いろ・いましめ」というふりがなが衝撃の『ラスト、コーション』原作本、『ラスト、コーション 色・戒』を読了。

ラスト、コーション 色・戒 (集英社文庫 チ 5-1)

ラスト、コーション 色・戒 (集英社文庫 チ 5-1)

表題作の『色・戒』は、凝った構成が興味深い短篇である。ヒロインの佳芝は、最初は(実際は彼女がなりすましている)麦太太として登場し、やがて抗日運動の工作員としての語りになり、それから王佳芝というひとりの女性、個人としての語りになる。そして、大半が佳芝の視点から書かれた小説は、最後に視点が易に移る。佳芝の視点から書かれた部分は、彼女の様々な心情が重層的に描かれ、それらの要因が互いに作用した結果、おそらく本人も十分に予期しないまま。最後の決定的な行動に至るところが興味深い。これがどのように映画化されているのか楽しみである。

なお、この本にはほかに、自身の映画脚本のノベライズである『愛ゆえに(多少恨)』と、『色・戒』と同年に書かれた『お久しぶり(相見歓)』、『浮き草(浮花浪蕊)』が収録されている。