『沖縄イメージを旅する - 柳田國男から移住ブームまで』読了。
沖縄イメージを旅する―柳田國男から移住ブームまで (中公新書ラクレ)
- 作者: 多田治
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/08
- メディア: 新書
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…戦前から現在までの沖縄イメージの歴史は、本土ツーリストと地元生活者との密な関係、相互作用の歴史でもあった。ツーリストが外から来て沖縄をまなざす視点も、多くの場合は地元の案内人の導きを受けるなかから醸成されてきた。ツーリストの沖縄イメージと、地元側の公的な沖縄像とは、お互いに媒介し合い、互いの眼を組み込み、何重にも折り重なってきた。(pp. 269-270)
わたしにとっても二項対立の構図は最も嫌悪するものだし、本土にも沖縄にも、価値観や立場を異にする様々な人がいるのだから、そんなに単純にまとめられるものではないだろう。また、著者自身がツーリスト/移住者であるからには、両方の立場から書くのが自然だともいえる。沖縄にあまり詳しくないわたしとしてはそれなりに興味深く読めたが、研究に基づいた本としては物足りない。
不満に思ったのは、沖縄イメージの背後にあると思われる二つの問題、ひとつは「アメリカ→日本(本土)→沖縄本島→離島」という階層関係、もうひとつは「沖縄は日本なのか」という問題にあまり言及されていないこと。個々のトピックに関連してふれられていないことはないのだが、深い分析はなされていない。唯一、次のようには書かれている。
琉球・沖縄の歴史を振り返るとき、島津氏の薩摩侵攻、明治期の琉球処分があって、沖縄戦とその後のアメリカの占領をはさんで、七二年の日本復帰後に再び本土化・ヤマト化の波が来た。現在のイージーな移住ブームというのは、それらに続くヤマトの第四の波が来ているのではないかと。(pp. 246-7)
わたしからみると、戦争や基地とか青い海とかとは異なる沖縄ブームといえば、90年代はじめごろのりんけんバンドとかネーネーズとかThe Boomの『島唄』である。それに、アジアブームの一環としての沖縄というのが続いたという認識である。ゴーヤーや沖縄料理が一般にかなり広まったのもこの頃だと思う。この本では戦前から現在までの沖縄イメージの変遷をたどっているが、そのあたりのことはほとんど書いてないに等しく、かなり違和感があった。また、日本復帰運動にほとんど言及されていないことにも違和感を感じる。
一方、多くのページが割かれているのはもう少しあとに来たブームであり、『ちゅらさん』とモンパチが特に取り上げられて分析されている。たしかにこちらのほうが大きな爆発的ブームだったのだろうが、個人的には『ちゅらさん』も観ていないし(同時に言及されている『ナビィの恋』も観ていない)、モンパチも聴いたことがない(名前自体この本で初めて知った→読んだ翌日に『地球の方程式』で言及されていた)ので、この章については内容が妥当なのかどうか全く判断できなかった。
このように、より広く知られた沖縄イメージを中心に語りながら、表層的ではないディープなツーリストや移住者を考察の中心にすえているのは矛盾しているのではないだろうか。