ここまで中国映画を観て、これから香港映画というときは、やっぱり中華でしょう。ということで天津飯店で晩ごはん。そのあとの、今日の四本目、東京フィルメックス十本目の映画は、黄楓(ファン・フェン)監督の『アンジェラ・マオ 女活殺拳』(goo映画)。
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冒頭の舞台は日本統治下の朝鮮。いきなり『唐獅子牡丹』がインストで流れてのけぞるが、悪徳日本人のBGMとして使うのはやめて。中国から合気道の修行に来ていた美しいヒロイン、茅瑛=藤純子、ちょっと気が弱い気味の兄弟子、黄家達(カーター・ワン)=大木実、無鉄砲で脳味噌なしの弟弟子、洪金寶(サモ・ハン)=長門裕之の三人は、日本人に目をつけられて身の危険が迫ったため、中国へ帰って滄州で道場を開く。しかしこの街にも悪徳日本人がのさばっており、日本人が館長の黒熊武館という道場の門弟たちが非道の限りをつくしていた。ここの館長が九段吾郎(この人は大映の俳優ですか?)=若山富三郎、一番強い弟子が白鷹(パイ・イン)=天津敏。お竜はん主演なのに若山富三郎が敵役なのはおかしいが、顔がそっくりなのでしかたがない。それに実際強そうなので、金子信雄や安部徹では役不足である。黒熊武館のいやがらせにも、合気道の師匠、池漢載(チ・ハンサイ)の‘忍’の教え(脳内メーカーのように‘忍’の字が並ぶ師匠の部屋には笑った)を守って我慢しようとする三人だが、黄家達は手を不自由にされ、洪金寶は殺されて、ついに茅瑛の怒りが爆発する。そこへ朝鮮から兄弟子、黄仁植(ウォン・インシク)=高倉健が助っ人に来て、ふたりで黒熊武館へ乗り込んで敵をやっつける、というのがおおまかなストーリー。せっかくのヒロインものなのに、ロマンスの香りがぜんぜんないのが淋しい。
当時の香港の俳優には詳しくないが、このメンツで誰を応援するかといわれれば、そりゃあ白鷹でしょう。『迎春閣之風波』[C1973-21]や『忠烈図』[C1975-23]ではいい役だったが、『血斗竜門の宿』[C1967-22]では悪役で、この映画もそう。しかも日本人の手下だから応援したくはないが、強さもかっこよさも際立っている。
この時代の香港映画を観ていていちばん物足りないのは、敵役はみんな最初から最後まで悪役で(一度漢奸になったら更生の道はない、という価値観の表れか?)、設定が単純すぎるところ。ここは東映任侠のように、途中からこちらにつく人がいてほしい。この映画では、日本人の道場の門下に中国人がいるのだから、そのような設定にはお誂え向きである。たとえば、なんらかの事情で黒熊武館に身を寄せてはいるが、日本の満洲への侵略に怒りをおぼえ、日本人館長の横暴に心を痛めている男がいる。彼は実は黄家達の幼なじみで、二人はある日偶然再会する。あるいは、反目する道場の人間とは知らずに街で茅瑛と知り合い、蜜柑を拾ってあげたりしてひそかに恋に落ちる(こっちのほうがいいわね)。そんな役はもちろん白鷹である。悪役なのでやむなく天津敏をふったが(天津敏は天津敏で好きだけど)、本当は池部良のほうがぴったりだ。
こんなどうでもいいことを考えても考えなくても、アクションを思いっきり堪能する楽しい映画で、夜の上映にはぴったりだった。今年のわたしのフィルメックスはこれでおしまい。