実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『忠烈図(忠烈圖)』(胡金銓)[C1975-23]

東京国際映画祭14本めは、同じく六本木ヒルズで胡金銓(キン・フー)監督の『忠烈図』(TIFF紹介ページ)。アジアの風・ディスカバー亜州電影【生誕100年記念〜KUROSAWA魂 in アジア中東】の一本。黒澤はどうでもいいので今回は純粋に映画を楽しむが、今度は小津や成瀬でこういう特集をやってほしい。

『忠烈図』は10年ほど前に一度観ていて、今回が二度め。7人の武術家が倭寇退治に行く話。ボスは喬宏(ロイ・チャオ)だが、中心になって戦うのは白鷹(バイ・イン)と徐楓(シュー・フォン)で、ふたりは夫婦役。白鷹がとにかくかっこいい。『血斗竜門の宿』[C1967-22]では白塗りの悪役で残念だったが、今回は、凛としたたたずまいが立っているだけでかっこいいし、戦えばもちろんかっこいい。しかもほとんど出ずっぱり。

徐楓は、これが彼女のクールな魅力を最も生かした作品だと思う。苗族だとかでエキゾチックな衣装を身につけ、ほとんどしゃべらないし、ぜんぜん笑わない。愛想笑いするときも、顔の筋肉を1ミリ動かすだけ。7人のなかで紅一点であるのみならず、映画全体でも紅一点ではないかと思うが、とにかく甘さというものが微塵もない。それでいて男っぽいわけではなく、色っぽさみたいなものはちゃんとある。

一方、倭寇のボスは洪金寶(サモ・ハン)演じる博多津。かなり荒唐無稽な造型だったように記憶していたが、案外ふつうで単なる桃太郎だった。いや、倭寇が桃太郎だったら十分荒唐無稽だが、パーツがちぐはぐだったりするわけではない。日本の時代劇から抜けだしてきた感じで、白塗りも時代劇よりちょっと濃いかなという程度。

この映画にはドラマはあまりなく、感覚的には四分の三くらいアクションシーンじゃないかと思う。しかも登場人物に内面などはなく、肉体と技があるのみ。後半、白鷹と徐楓が倭寇の根拠地の島へ行き、武術の挑戦を次々に受けるあたりになると、白鷹が出ずっぱりなのはいいけれど、いったいいつまで続くのかという感じになる。

しかし、このあと戦いの場が海岸へ移ってからがすごい。喬宏が韓英傑(ハン・インチェ)に執拗に蹴られ続けるのもすごいが、本当にすごいのは白鷹と洪金寶の一騎討ち。最初は、ふたりの戦いを上半身が入るくらいの大きさで見せながら、時おりロングショットを挿入して全体像を示している。次に、戦っているふたりの顔を、すばやい切り返しでこれでもかというくらい見せる。アクションはほとんど写らず顔だけ。白鷹はこれまで端正なたたずまいを保ってきただけに、ここの必死の形相が効果的。そのあとは、いくらなんでもトランポリン使いすぎという感じの洪金寶の見せ場があって、さらに徐楓と呉明才(ウー・ミンツァイ)が加わり、四人ほぼ同時にばったり倒れて終わり、という壮絶な展開。もう「ああ、おもしろかった」とつぶやくしかない。胡金銓を観たらほかのアクション映画はいらないわ、という感じ。

ところで、倭寇の根拠地の道場の名札に、梅宮辰夫と室田日出男の名前があった。ファンなんだろうか。ほかにはどんな名前があるか知りたい。

上映後、宇田川幸洋氏をゲストにQ&Aが行われたが、体力温存のためパスした。