実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『それぞれのシネマ(Chacun Son Cinema)』[C2007-13]

今日から東京フィルメックス(公式)なので、有楽町へ向かう。今日の会場は東京国際フォーラム。まずはオープニング・セレモニー。行定勲はフィルメックスの審査員をするほどの監督なのか疑問だ。トイレ休憩もなく始まる1本目は『それぞれのシネマ』。カンヌ映画祭60回記念で、映画館をテーマに35人の監督が撮った33本のオムニバス。こういう企画ものオムニバスは、観たからといって特別おもしろいわけではないが、観たい監督が入っていると観なければ後悔する。結局観ないわけにはいかないやっかいな代物である。選ばれている監督は、多くは巨匠一歩手前という感じで、あまり若い人はいない。大御所もあまりいないと思ったらオリヴェイラがいたり、もう終わったような人も含まれていたりする。結局のところよくわからない人選なのだが、台湾から侯孝賢蔡明亮、香港から王家衛というのは順当すぎるほど順当で、ヨーロッパからはわたしが観ることにしている監督をほとんど含んでいる。とりあえずの期待度はこんな感じ。

  • すごく観たい:侯孝賢、Abbas Kiarostami、蔡明亮王家衛
  • かなり観たい:Jean-Pierre et Luc Dardenne、Manoel de Oliveira、Aki Kaurismäki、Nanni Moretti
  • 観たことがない:Youssef Chahine、Raymond Depardon、Raul Ruiz、Elia Suleiman、Gus Van Sant

放っておくと忘れそうなので、各篇のキーワードだけ書いておく。タイトルもいろいろ入り混じっているが、わかる範囲で、中題 > 邦題 > 英題の優先順位。

  1. Raymond Depardon(レイモン・ドゥパルドン)『夏の映画館』:暮れていくオープンエアの映画館。インド映画を観る人々の楽しそうな顔。
  2. 北野武『素晴らしき休日』:田園の中の映画館。自転車。『キッズ・リターン』。犬。
  3. Theo Angelopoulos(テオ・アンゲロプロス)『三分間』:マルチェロ・マストロヤンニに語りかけるジャンヌ・モロー。マストロヤンニ追悼。
  4. Andrei Konchalovsky(アンドレイ・コンチャロフスキー)“In the Dark”:『8 1/2』。受付の女性。カップル。
  5. Nanni Moretti(ナンニ・モレッティ)『映画ファンの日記』:『親愛なる日記』第一部を思い出させるモレッティの独白。映画館と映画の思い出。『家庭』、スタローン、『マトリックス2』。
  6. 侯孝賢(ホウ・シャオシェン)『電姫戲院』:1960年代。『アキラのズンドコ節』の台湾語カヴァー。『あひるを飼う家』と『シェルブールの雨傘』と吉田輝雄版『愛染かつら』。軍服の張震(チャン・チェン)。風景にとけこむ張震・舒蒞(スー・チー)夫妻。廃墟の映画館に映し出される『喧嘩太郎』、じゃなくて『少女ムシェット』。
  7. Ethan & Joel Coen(イーサン&ジョエル・コーエン)“World Cinema”:『ゲームの規則』とトルコ映画。ゲイのカウボーイ。
  8. Jean-Pierre et Luc Dardenne(ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ)“Darkness”:映画館を這う少年。ひと目見てダルデンヌ兄弟とわかる顔。涙をぬぐう女性(気づかなかったが、『ロゼッタ』のエミリー・ドゥケンヌだったの?)。
  9. Alejandro Gonzalez Iñarritu(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ)“Anna”:『軽蔑』。盲目の女性。煙草。カラーとモノクロ。
  10. 張藝謀(チャン・イーモウ)“看電影”:村の野外上映。子供。若い映写技師。映画が始まるまでの長い時間。
  11. Amos Gitai(アモス・ギタイ)“Le Dibbouk de Haifa”:ワルシャワ1936年。現在のハイファ。爆撃される映画館。
  12. Jane Campion(ジェーン・カンピオン)“The Lady Bug”:タイトルどおり。
  13. Atom Egoyan(アトム・エゴヤン)“Artaud Double Bill”:別々の映画を観る男女。『女と男のいる舗道』の『裁かるるジャンヌ』。
  14. アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)“The Foundry”:工場から出てくる労働者たち。ひと目でわかるカウリスマキな顔、顔。『工場の出口』。
  15. Olivier Assayas(オリヴィエ・アサイヤス)“Recrudescence”:カップル。泥棒。携帯が入ったバッグ。
  16. Youssef Chahine(ユーセフ・シャヒーン)“47 Years Later”:カンヌに参加した若い監督。47年後の受賞。
  17. 蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)“是夢”:(ロケ地はクアラルンプールらしいが)東マレーシアの夜。ドリアン。蔡明亮の父を演じる李康生(リー・カンション)。映画館で梨を食べる蔡寶珠(パーリー・チュア)。
  18. Lars Von Trier(ラース・フォン・トリアー)“Occupations”:職業を聞く男。殺人。
  19. Raul Ruiz(ラウール・ルイス)“The gift”:チリの部族に贈られた映写機。
  20. Claude Lelouch(クロード・ルルーシュ)“The Cinema around the Corner”:映画をめぐる両親の思い出。フレッド・アステア『男と女』
  21. Gus Van Sant(ガス・ヴァン・サント)“First Kiss”:青い海と女性。スクリーンに入る青年。
  22. Roman Polanski(ロマン・ポランスキー)“Cinema erotique”:(観たことがないのでわからなかったが)『エマニエル夫人』。二階から落ちた男。
  23. Michael Cimino(マイケル・チミノ)“No Translation Needed”:キューバ人バンド。
  24. David Cronenberg(デヴィッド・クローネンバーグ)“At the Suicide of the Last Jew in the World in the Last Cinema in the World”:タイトルどおり。
  25. 王家衛(ウォン・カーウァイ)“I traveled 9.000km to give it to you”:一瞬張國榮(レスリー・チャン)かと思った范植偉(ファン・チィウェイ)の顔。映画館の赤い椅子。『アルファビル』。文学的なモノローグの字幕。
  26. アッバス・キアロスタミ(Abbas Kiarostami)“Where is my Romeo?”:『ロミオとジュリエット』。涙を流す女性たちの顔、顔、顔。
  27. Bille August(ビレ・アウグスト)“The Last Dating Show”:カップル。イラン人女性。デンマーク語→英語通訳。
  28. Elia Suleiman(エリア・スレイマン)“Maladress”:トイレに落ちたケータイ。
  29. Manoel de Oliveira(マノエル・デ・オリヴェイラ)“Sole Meeting”:フルシチョフローマ法王の遭遇。サイレント。映画館が登場しない唯一の映画。
  30. Walter Salles(ウォルター・サレス)“5.557 Miles from Cannes”:原色の町並み。『大人は判ってくれない』。ラップ漫才。ジルベルト・ジル。
  31. Wim Wenders(ヴィム・ヴェンダース)“War in Peace”:コンゴ。戦争映画(『ブラックホーク・ダウン』とのこと)を観る子供たち。
  32. 陳凱歌(チェン・カイコー)『Zhanxiou Village』:チャップリンを上映する子供たち。『赤い柿』を連想させる自転車発電。盲目の少年。
  33. Ken Loach(ケン・ローチ):“Happy Ending”:チケット売り場。父と子。サッカー。

たったの三分なので、あまり起承転結やわかりやすいオチを持ち込まないもの、それから監督の個性というかトレードマーク的なものを出した「オレ様」的なもののほうが、繰り返しの鑑賞に耐えると思う。少なくとも最後まで行ってはいけない。それから自作をかけるのはどうなの? かかっている映画は、カンヌからの依頼ということで、フランス映画、あるいは世界的に知られたものが多かったが、もう少しローカル色があってもよかったと思う。

好き嫌い、良し悪しが入り混じるオムニバスを評価するのは難しいが、『アキラのズンドコ節』のすばらしさ(侯孝賢なんだから小林旭に決まってます)とマレーシアの夜の暗さと范植偉の神々しい顔とナンニ・モレッティの健在ぶり、さらにはフルシチョフに扮したミシェル・ピコリとゲイのカウボーイの失恋とアジアみたいなブラジルの町並みに敬意を表して、とりあえず

最後に、わたしが33組の監督に頼むとしたら、誰を選ぶか考えてみた。あまり熟考していないが、ざっとこんな感じ?(アルファベット順のつもり)

Aktan Abdikalykov(アクタン・アブディカリコフ)、Serik Aprymov(セリック・アプリモフ)、陳正道(レスト・チェン)、鄭文堂(チェン・ウェンタン)、Arnaud Desplechin(アルノー・デプレシャン)、Victor Erice(ビクトル・エリセ)、韓傑(ハン・ジエ)、何宇恆(ホー・ユーハン)、洪尚秀(ホン・サンス)、侯孝賢、許秦豪(ホ・ジノ)、Abolfazl Jalili(アボルファズル・ジャリリ)、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)、Aki Kaurismäki、Abbas Kiarostami、邱金海(エリック・クー)、關錦鵬(スタンリー・クワン)、林正盛(リン・チェンシェン)、Nanni Moretti、寧浩(ニン・ハオ)、彭浩翔(パン・ホーチョン)、Eric Rohmer(エリック・ロメール)、譚家明(パトリック・タム)、田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)、杜蒞峰(ジョニー・トー)、蔡明亮、王童(ワン・トン)、王家衛、Yasmin Ahmad(ヤスミン・アハマド)、易智言(イー・チーイェン)、應亮(イン・リャン)、章明(チャン・ミン)、張作驥(チャン・ツォーチ)。

映画が終わって投票用紙を折りながら歩いていたら、ちあきなおみが『喝采』を歌いながら下りてきそうなCホールの階段から落ちてしまった。気を取り直して下りたがJ先生が見つからないので、トイレにケータイを落としたに違いないと思った(違ったようだが)。