実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『兄とその妹』(松林宗恵)[C1956-30]

お昼ごろ阿佐ヶ谷へ。ラピュタ阿佐ヶ谷近くのインド料理屋でカレーを食べてから、「映画監督松林宗恵 - 和尚・海軍士官・映画監督を生かされて」(公式)の『兄とその妹』(goo映画)を観る。主演は、池部良原節子司葉子池部良がまだ若くて美形っぽいが、実は『早春』[C1956-07]と同じ年。原節子は『驟雨』[C1956-06]と同じ年。

池部良司葉子が兄妹で、池部良の妻が原節子。互いに相手を思いやり、兄嫁と小姑の争いもなく、それぞれの幸せを願う、見た目にも精神的にも美しすぎる家族の物語。なのだけれど、夫は毎晩重役の碁のおつきあいで午前様、妹も同居しているので、池部良原節子夫婦は子供を作ることもできない。妹の司葉子は、支配人秘書か何かで英語がペラペラの高給取りで、そのへんの安月給の男とは結婚できない。焦っている様子はないが、独身の友人同士で集まるたびに「誰かさんと誰かさんが麦畑〜♪」と歌っているのがかなり異様で、相当な欲求不満と思われる。そこに条件のよい求婚者が現れ、いろいろゴタゴタしたのちに、司葉子も片づき、池部良も転職して碁のおつき合いから解放され、夫婦はめでたしめでたしというお話である。

島津保次郎監督の1939年の同名映画のリメイクで、脚本=島津保次郎となっているから、たぶんほとんど同じ内容だと思う。戦前のシナリオのせいか、同時代のほかの映画と比べて台詞まわしが古くさかったり、小説か何かから抜き出したような不自然さを感じたりして気になった。オリジナル版のキャストは佐分利信三宅邦子、桑野通子。こちらも魅力的な組み合わせでぜひ観たい。

もとが松竹映画だからそもそも松竹っぽい題材、ストーリー。主要な出演者は、池部良原節子司葉子小林桂樹加東大介など、東宝の俳優であっても小津映画に出ている人だらけ。そのうえ斎藤達雄まで出ているとあって、松竹色がプンプンである。ただし司葉子に求婚するのが平田昭彦というところだけ東宝色濃厚。これが松竹だと佐田啓二か誰かで、司葉子は幸せになれることを誰も疑わない。しかし平田昭彦だと見るからに怪しくて、司葉子の将来も保証しかねる。パテントのブローカーだとかいうところから怪しいし、見た目もキザっぽいのに、写真を見た池部良原節子も、一様に「立派そうな人」とかなんとか言うのはおかしい。

観るまで全く知らなかったが、またもタイムリーに碁が出てきた。碁はマス目の中ではなく、交点の上に石を置くのだということを初めて知った。