実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『黄色い風土』(石井輝男)[C1961-36]

今日は午後半休。ずっとこの日を楽しみに、忙しい仕事に耐えてきた。フィルムセンターの「特集・逝ける映画人を偲んで 2004-2006」(公式)で、今日は「石井輝男を偲ぶ日」なのだ。まず一本めは『黄色い大地』、じゃなくて『黄色い風土』(映画生活/goo映画)。この数年間に都内で二度ばかり上映されたが、いずれも日程が合わなくて行けなかったから、私にとってはこの特集一の目玉である。そんなこと思っているのは私だけかと思って開場ぎりぎりに行ったら、階段に突入しそうなほど並んでいて、平日の昼間なのにほぼ満員になった。

監督が石井輝男で主演が鶴田浩二、というだけで観たいほうの箱に入ってしまうので、内容はあまりチェックしていなかった。始まると、いきなり火山がどーん。「ぐぁーん、ニュー東映だったよ」とアタマの中でつぶやく私(なんとなく心配になる)。冒頭、鶴田浩二が新婚さんだらけの列車に乗って向かったのは熱海。出てくるホテルはあのつるやホテル。いきなりテンションが上がり、「つるやホテルですよ、奥さん」と、誰にともなく(アタマの中で)つぶやく私。それにしても、つるやホテルがなくなったのは惜しまれる。

映画は松本清張原作のミステリー。でもひとことで言うと、鶴田浩二佐久間良子を追いかける映画。私生活の続きみたいで、なんだかいやねえ。なんだか不潔よ。

その鶴田浩二だが、これが全然よくない。だぶついた体を包むシャツとネクタイのゆるい着こなし。アタマには変な帽子。ひと目見てわかるとおり、彼は新聞系週刊誌の記者である。いかにも原作ものらしく、不自然なモノローグで始まる冒頭からいやな予感がしたが、台詞まわしも顔の動きも動作もすべて大仰である。しかもヘラヘラしていてどこかおっさんくさい役柄。トランクス姿(たぶん)も拝めるが、あまり見たいようなものでもない。

一方、この上映で追悼されるべきもうひとりの人、丹波哲郎が超かっこいい。かなり若げだが(でももう40前なのか)編集長。「ウン、ボクもキミの推理が正しいと思うよ」とか根拠もなく言っていて、もうすっかりタンバ節である。今回の特集のチラシは、『誇り高き挑戦』[C1962-35]のタンバが表紙で、これがまた超かっこいいのだが(『誇り高き挑戦』を再チェックしなければ)、あれに近い雰囲気。タンバのシーンになったとたん、明らかに画面がしまる。その隣に鶴田浩二がいると画面がゆるむ。

鶴田浩二の助手が曽根晴美というのが、いかにもニュー東映って感じ。しがない旅館の女将役で吉川満子が出ているが、ニュー東映に吉川満子はいかにもミスマッチ(でも晩年は東映系にいっぱい出てますね)。

ミステリーとしては、かなりダイジェスト的に性急に話が進んでいくが、犯人が明らかになったとたん石井輝男的世界が展開して、画面もなんだかイキイキしてくる。それまでゆるんでいた鶴田浩二もパリッとしてくる。最後の大砲射撃演習のシーンはなかなかのスケール感で、画的にも見せてくれる。ちょっと腕が飛んだりもする。「最後にもうひと目タンバを見たい」との願いもむなしく、鶴田浩二佐久間良子がふたりの世界に入って終わってしまうのはどうにもいただけない。