Meal MUJIで晩ごはんを食べようと思ったら改装中でお休みだったので、東芝ビルのチャオタイまで行ってからフィルムセンターに戻る。「石井輝男を偲ぶ日」の2本めは、『網走番外地 望郷篇』(映画生活/goo映画)。さっきの教訓から開場10分前くらいに行くと、今度は余裕でロビーの椅子に座れた。開演時になってもわりに余裕がある。『黄色い風土』ほどレアでないせいなのか、それとも老人は夜は家に帰るからなのか…。
- 出版社/メーカー: 東映ビデオ
- 発売日: 2002/09/21
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霧の深い夜、トレンチコート姿の高倉健が故郷・長崎に帰ってくる。もうこの冒頭シーンからかっこいい。彼が身分を明かさずに組の若者と飲みに行くと、回想シーンをまじえて語られるふたりの話から、健さんの身分とその背景が効率よく判明するが、その回想シーンに出てくる、親分・嵐寛寿郎の貫禄にもしびれる(今回のアラカンは網走仲間ではない)。
若親分が敵対する組にやられて入院していると聞いて、健さんは見舞いに駆けつけるが、その若親分がなんと中谷一郎である。再会したふたりは、ちゃんづけで呼びあい、熱く見つめあう。健さんとワケありらしい女性と中谷一郎との結婚が話題にのぼり、次のシーンでは、その女性・桜町弘子と健さんがお寺で再会する。昔彫ったとおぼしき相合傘の前で語り合うふたり。未練をにじませる桜町弘子に対し、健さんは相合傘の自分の名前を消そうとする……。一歩間違えばくさくさになりそうなこんなシーンがめちゃくちゃよい。このあとの展開に期待が膨らむものの、三人が一同に会することはなく、健さんがふたたび中谷一郎に会うこともないので、三人の関係は特に進展せず、残念でした。そのまえに中谷一郎の登場シーンが2回しかなかったのが残念でした(帰ってチラシを見たら、この映画は中谷一郎を偲ぶ映画としても選ばれていた。でも2シーンしか登場しない映画だけなんてあまりにも失礼だ。『男の顔は履歴書』[C1966-13]をやってほしい)。
舞台が長崎で、その地形を生かしたロケも魅力。組の主な仕事場が港なので、港のシーンが多いが、坂道や石段の路地もいい雰囲気を醸し出している。お墓や孤児院が高いところにあって、ぱっと視界が開けるところもいいし、長崎くんちもストーリーに組み入れられ、見せ場のひとつとなっている。天草行きの船も出てきて、道具立てはそろっているという感じ。『ならず者』[C1964-31]などの海外ロケのすばらしさを彷彿させる。
アラカンが殺され、健さんがひとりで殴りこみに行くシーンも工夫がこらされている。まず雑魚をやっつけてから大物へ、というのが殴りこみの定石パターンだが、この映画では雑魚は無視していきなり大物へ行く。いくら殴られても顔色を変えなかったり、自分はカタギだといって刺青をライターで焼いたり、健さんの「ただものでない度」がそれまでにしっかり印象づけられているので、ここで下っ端たちがビビって何もできなくても十分納得できる。しかも冒頭のアラカンの迫力と、見事に対応している。健さんは親分の安部徹をはじめとする三人を、石井輝男っぽい死にざまで殺しておしまい。
そこに現れるのが杉浦直樹。彼は安部徹に雇われた殺し屋で、宍戸錠的役柄で登場している。肺病やみで、白いスーツで喀血したりするやたらとニヒルな役柄だが、やはり杉浦直樹だと笑ってしまってギャグに見える。サングラスで顔はあまりわからないけれど二八分けだ。最後の対決シーンも(想定は)めちゃくちゃかっこよく作られているのだが。
『網走番外地 望郷篇』が期待以上だったこともあり、今日は石井輝男を満喫した。次はシネマヴェーラの『異常性愛記録 ハレンチ』を楽しみに、がんばろうと思う。