『図説 台湾の歴史』読了。
- 作者: 周婉窈,濱島敦俊,石川豪,中西美貴
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2007/02/01
- メディア: 単行本
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これまでの歴史が漢人の観点で書かれていたことへの反省から、この本では、原住民からの観点、あるいは異なる族群の観点が常に意識されている。また、歴史的な事件の複雑な背景を、あっさり単純化したり二者択一的に決めつけたりせず、複雑なままで提示しつつ、我々がそこから何を学ぶことができるのかを問いかけている。広い範囲を網羅的、年表的にカバーしているわけではなく、取り上げられているのは各時代の出来事のごく一部であるが、限られた内容を少し深めに記述しながら、各時代の輪郭を適切に描いていると思う。
台湾の歴史の本のお薦めは何冊かあるが、難しい内容で誰にでも薦められない本が多い。この本は、量も少なめで絵や写真も多く、記述内容も難しくないので、初心者を含め、台湾に興味をもつすべての人にお薦めしたい。F4の追っかけに行く人もぜひ読んでください。内田先生も読んだほうがいいと思います。
私が漠然と思っていたことをうまく言い表しているところが何箇所かあるので、引用しておく。特に最後のは、いろんな人やいろんなブログに贈りたい。
…今日の日本は依然として六十数年前の歴史の影響を受けていることを常に感じるが、人びとはそのことをあまり意識していないのかもしれない。「終戦」は未だ本当には終結していないかのように見える。自分が、理解できない力に左右されながら、それを自覚することがないとすれば、そのことは、個人、社会あるいは国家において、むしろ大変危険なことではないだろうか。……(「日本語版への序文」p. 6)
……明瞭に異なる歴史経験は、まったく異なった歴史的記憶を生み出す。「他者」の被害の歴史を知り、それを自己の記憶に組み入れることは、ある種の想像力と、現在の自分を超越する普遍的な理解力を必要とするものである。……(「「白色テロ」の時代」p. 192)
……彼ら(引用者註:台湾人元日本兵)の歴史的記憶は、90年代に至るまで、ある意味で封印されていたのだ。戦後、彼らは日本人と一緒に戦争を反省する機会がなかった。……このため、彼らが自身が参加した戦争の本質を理解することができなかったとしても、これはとてもよく分かることであって、私たちは彼らを責めることはできない。ただ私たちは、この世代の人たちに対して「同情的理解」を示す以外に、当事者たちの知覚を超える認識を、必ずもたなければならない。そうしてこそ初めて、私たちはある種の政治的陰謀やその論述の罠にはまらずに済むのである。(「民主化運動」pp. 215-216)