実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『旅。建築の歩き方』(槻橋修・編)[B1194]

『旅。建築の歩き方』読了。あと数ページというところで放置していたので、かなり忘れちゃったけど。

旅。建築の歩き方 (建築文化シナジー)

旅。建築の歩き方 (建築文化シナジー)

9人の建築家に、旅についてインタビューした本。私も建築が好きで、旅先で建築を見て歩くことも多いので、参考になるかもと思って読んだ。でもあまり参考にはならなかった。考えてみれば、見た建築を自分の仕事に生かそうとするのと、好きで見て歩くのとは全然動機が違うわけで。建築家ではなく、建築史家にインタビューしてほしいですね。

建築家がどんなところに行っているかというのにも興味があったけれど、意外とふつうというか、建築家が行きそうという意味でも、旅好きの人が行きそうという意味でも、「いかにも」なところが多かった。あまりアジアに行っていないし、ひとつのところに拘っている人がいないのも残念。みんなコルビュジエは巡っても、伊東忠太の旅を旅したりはしないんですかね。

登場する建築家は、名前を知っている程度か全く知らないかで、特に思い入れはなかったが、本自体はおもしろく読んだ。インタビュー本でもあり、直接参考にするというよりは、問われていることに対して「自分はどうだろう?」とあれこれ考えてみるのが楽しい。

テレビやインターネットでいろいろな場所を見ることができるようになって、旅の意味も変わるのではないか、というような話も出ていたが、私はそうは思わない。もちろん技術はこれからもっと進歩して、疑似体験の質は上がっていくだろうし、細部をじっくり見るには写真や映像のほうが圧倒的によくなるだろう。だけど、旅でしか得られないものは、建築単体ではなく、まわりの建築や環境、音や匂い、空気感、そこにいる人々といったものをひっくるめて体験することだと思うし、何より大事なのは、そこに自分自身も含まれているということだ。さらに、そこへ行くのにすごく歩いたとか暑かったとかいったことも含めて、体に刻み込まれたもの、身体的な記憶みたいなものが実はすごく重要なのではないかと思う。