実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『イタリア縦断、鉄道の旅』(池田匡克)[B1228]

『イタリア縦断、鉄道の旅』読了。

イタリア縦断、鉄道の旅 (角川oneテーマ21)

イタリア縦断、鉄道の旅 (角川oneテーマ21)

これもイタリア旅行に向けてのお勉強の一環。私は基本的に鉄道旅行が好きだが(いわゆる鉄道好きではない)、イタリア旅行は鉄道にしようかクルマにしようか迷うところだ。最近クルマ旅行の便利さに気づいてしまったし、イタリアならレンタカーもイタ車だと思うと心が動く。でも鉄道にも乗ってみたい。この本は、鉄道旅行をする場合には役に立ちそうな情報がいろいろと載っているが、それではおもしろかったかといわれるとそれほどでもない。一般論として、行ったことのない場所の旅行記は行ったことのある場所の旅行記ほどおもしろくないものだが、あとがきを読んで、この本がいまひとつおもしろくない理由がわかった。それは、ここに描かれている旅が、旅のための旅ではなくて、本のための旅であるからだ。

行った先での体験や見聞を中心とした旅行記ならともかく、この本は鉄道自体が主役であり、鉄道に乗ることがメイン・イヴェントである。鉄道の旅においては、予算や旅程と相談しながら乗る列車を決めたり、切符を入手したり、途中で想定外の出来事に遭遇したりといったことが大きなウェイトを占めるし、それが旅の醍醐味でもある。しかしながら、この本の旅は「トレニタリアから多大なる取材協力をいただ」き、「白紙チケットをぽんと出し」てもらい、広報担当者に「チケット関係を手配して」もらっての旅なのだ。さらに、出版元の編集者(たぶん)が旅の途中で「冷静な指示をメールしてくれた」りしている。一等車に乗ったりタクシーに迎えに来てもらったりしていることも含め、なんだか白ける話である。こちらはドキュメンタリーが見たいのに、見せられているのはやらせ番組なのだ。旅行記というのは時に、プロが書いた本などより、個人サイトに掲載された素人のもののほうがおもしろくもあり、役にも立つことがある。それはおそらく、旅行者にとってのその旅の切実さやそれに伴う生々しさが、お金をもらっての取材に比べて圧倒的だからだろう。

タイトルも気になる。一回の旅で縦断したように思わせるタイトルだが、実は、比較的狭い地域の鉄道の旅が五つあって、全体を通してみると北から南まで縦断している、というもの。しかも、北から南まで抜けなくつながっているわけではないので、ちょっと騙されたように感じる。著者はフィレンツェ在住だが(フィレンツェからシチリアへ飛行機で移動していたのが許せない)、イタリアに行って鉄道に乗る旅行者は、大都市間を長距離移動することのほうが多いのではないだろうか。そのような移動は時間もかかるし、チケットも取りにくそうだし、不安も多いので、そのあたりもフォローしてほしかった。

ほかに気づいたことや、もっとこうしたらいいと思ったこと。

  • この本に限らないが、旅行記というものは、何年何月何日何曜日の話なのか、すぐわかるところにきちんと書いておくべきだと思う。そうでなければ値段などの細かい情報をいくら書いても意味がない。読み進むうちにどうやら2006年秋ではないかというところまではわかったが、読んでいてかなりイライラする。
  • せっかく値段が細かく書いてあるので、レートまたは円換算額も書いておいてほしい。
  • 写真がカラーなのはたいへんよろしい。各章の最後に写真がまとめてあるのも、印刷コストの問題だと思うので許容できる(ならば文章のページは紙質を落とせばもっと安くできるのではないかと思うのだが)。しかし、本文と写真が分離しているにもかかわらず、その間のリンクが存在しないので非常にわかりにくい。写真に番号をつけて、本文の関連箇所に「……(写真3)」というように書くべきだと思う。
  • 比較的小さな街が出てくることもあり、イタリアの地理に詳しい人でないと今どこを走っているのかわかりにくいと思う。2ページ(見開き)ごとに、その章の旅のルート図(各章扉にある)を小さく載せ、「このページはこの部分です」というのを明示してくれると嬉しい。
  • トイレの話があまりないのも気になった(そう思いながら読んでいたら、最後のシチリアの章にはけっこう出てきた)。著者はやたらと駅のバールでカプチーノや酒を飲んでいて、私もぜひ駅のバールでエスプレッソを飲みたいが、鉄道やバスの旅ではトイレに行きたくならないよう極力水分は採らない。イタリアのトイレ事情が気になるところだ。
  • 映画のロケ地への言及がいくつかあった。ラインナップは満足のいくものではないが、『親愛なる日記』が出てきた(p. 176)のはよかった。
  • カンノーロが出てきたのはよかったが、写真がなくて残念。