実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『特集:上海 - 「魔都」と呼ばれた世界都市を歩く』(「東京人」no. 232)

「東京人」11月号の特集は『上海 - 「魔都」と呼ばれた世界都市を歩く』。

東京人 2006年 11月号 [雑誌]

東京人 2006年 11月号 [雑誌]

「東京人」の特集としては興味深い内容だったが、やはり物足りない。内容はヴァラエティに富んでいるが、そのぶん全体を貫く筋というか、編集方針みたいなものが感じられない。つまり、「「東京人」はこういう視点で上海を見ています」というのがないのだ。だからそれぞれの記事がばらばらで、読み進むうちに積み重なっていくような感じがない。ひとつひとつの記事も、こだわりやディープさに欠ける。

比較的おもしろかったのは、村松伸氏の『「生き急ぐ」上海の都市計画』、斎藤憐氏の『ジャズの裏側にあるもの』あたり。いずれも今の上海のあり方や上海ブームを、どちらかといえば批判的に見ている。『ジャズの裏側にあるもの』の最後には、次のように書かれている。

二〇〇六年、かつて英国人が建てた旧チャータード銀行や、旧フランス租界の洋館のリニューアルが進んでいると新聞が伝えるが、残すのは建物だけでいいのか? 表層の、目に見えやすいファッションや風俗で町を語ってはならない。(p. 75)

上海の建設ブームを肯定的に書いた記事もあり、「うーむ」という感じである。森ビルの造るビルなんて、ろくでもないものの代名詞じゃないか。でも次に上海へ行ったら、やっぱり上海環球金融中心に上るんだろうな(J先生は高いところに上りたがるからね)。

映画に関しては、宇田川幸洋氏の『装置として魅力的な町、上海』というのがあったが、これもうすかった。「うす味でお願いします」って原稿を依頼しているんだろうか。「東京人」の編集委員は、川本三郎陣内秀信森まゆみとかなり豪華だが、この「うすい読後感」は、実は川本三郎氏の著書と共通するものである。