『日・中・台 視えざる絆 中国首脳通訳のみた外交秘録』読了。
- 作者: 本田善彦
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 単行本
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内容はたいへん興味深くおもしろかった。ただ、記述がかなり情緒的(美人という意味ではない)なのが気になる。それに「話を○○に戻そう」という表現が多すぎる。脱線したあとこのフレーズで元に戻すという方法は、わかりやすくて便利な反面、手抜きでずるくてかっこ悪いと思う。少なくとも私は使いたくない。「近年、」で始まる論文と同じくらいにかっこ悪い。
最近の台湾を扱った書物は、「台湾人意識」ばかりが称揚されたり、それが中国人意識とは相容れないものとして描かれたり、反中感情と一体化していたりして、違和感を感じることも多い。この本では、戦後大陸に渡った台湾人というレアな存在が取り上げられているのが嬉しい。そのかなりの部分を日本に住んでいた台湾人が占めていたという事実も興味深かった。彼らの台湾に対する思いや、彼らと関係のある台湾人の大陸に対する思いなどが複雑な感情として語られているが、独立とか統一とか台湾人意識とかそんなひと言では片付けられない複雑な感情があってあたりまえである。
大陸在住台湾人が、台湾独立の主張が生まれた背景をどのように考えているかも紹介されているが(p. 302-304)、「国民党が台独を生み出した」(p. 304)というのをはじめ、その歴史認識はかなり正確であるように思われ、興味深かった。もちろん著者が指摘するように、「共産党が台湾独立を助長した」という面もたしかにあり、そういった認識は欠けているのだが。
台湾独立に関しては、2002年に李登輝と再会した呉克泰の、李登輝についての次の証言が興味深い。呉克泰は二・二八事件後に大陸に渡った台湾人共産主義者で、彼がかつて中国共産党に入党させた一人目の人物が鍾浩東で、二人目が李登輝らしい。
「いわゆる台湾人意識に凝り固まっているように感じた。二言目には台湾人の安全と福祉は保障されねばならないと言っていたが、彼の話を聞きながら、もし国内や国際情勢、歴史や文化などへの周到な思考がなければ、かなり偏ったものになってしまうだろうと懸念を覚えました」(p. 339-340)
ところで台湾人とは何の関係もないが、この本の中で最も興味深かったのは次の部分。
そして、脇の机にあったタバコ「熊猫(パンダ)」を取り上げ、毛に「タバコを吸ってもいいですか」と聞いた。(p. 25)
これは、日中国交正常化交渉の終盤、毛沢東宅に招かれた田中角栄の言動を描いたものである。だから日本にパンダを送った、というわけでもないのだろうけれど(日本にパンダが贈られることは、この二日後に発表された)。