実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ディア・ピョンヤン』(梁英姫)[C2005-39]

一階下の渋谷シネ・ラ・セットへ移動して、梁英姫(ヤン・ヨンヒ)監督の『ディア・ピョンヤン』(公式映画生活)を観る。在日二世の監督が、朝鮮総聯元幹部の父親を追ったドキュメンタリー。見たところ仲のよさそうな家族だが、監督と父親の北朝鮮に対する考え方は異なっている。そんな父親にキャメラを向けるという行為を通して、これまで聞きたくても聞けなかったことを聞けるようになるまでを描いている。

おとうさんが病に倒れてしまったため、結局それ以上の問いかけはできなくなってしまうのだが、私が一番知りたかったのは金日成金正日崇拝についてだ。在日朝鮮人の権利獲得や差別撤廃のために活動するのは立派なことだし、社会主義に傾倒するのもいい。だけどどうしてそれが金日成金正日崇拝につながるのか。私なりに答えを探れば、北朝鮮の現実が自分の思い描いていた理想と異なることを知りながら、息子たちが住んでいるために援助せざるを得ない。そのような状況で、自分の中の迷いや疑問を封じ込めるためには、理屈ではない絶対的なものにすがらざるを得なかったのではないか。監督もそのあたりが聞きたかったに違いないと思うのだが。

監督はこの映画を観て「北朝鮮にもふつうの生活があることを知ってほしい」と言っているらしいが、北朝鮮にもふつうの生活があるのはあたりまえで、そんなことをわざわざ言わなければならない今の日本の社会っていったい何なんだろうと思う。私が注目したのは、北朝鮮の生活よりも万景峰号の中でのすごく嬉しそうなおとうさんとおかあさんだ。万景峰号は、離れて暮らす家族と会うのを心待ちにし、少しでもたくさんのお土産をもっていって助けてあげたいと願う、こういった人々を運んでいる。報復として万景峰号の入港を認めないとか、日朝国交正常化交渉を進めないとかいった政策が苦しめているのはこういう人たちだをということを知ってほしいと思う。ところで、やたらと暗い「革命の首都」(とバスガイドさんが言う)の夜に、ショパンの『革命』が流れるシーンが秀逸だった。

全篇に監督によるナレーションが入っているが、少し説明過多だと思う。それに語りが堅いので、大阪弁とか、もっとしゃべっているようなナレーションだったらよかったかもしれない。

渋谷で夕方まで映画を観たら、当然晩ごはんはとんき。本当は今日はアジア海洋映画祭に行きたかったのだけれど、去年幕張があまりに遠かったので今年は挫折。来年は湘南でやってほしい。