『フレンチ上海 - 東洋のパリを訪ねる』読了。
- 作者: にむらじゅんこ,菊地和男
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2006/07/25
- メディア: 大型本
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- 本のつくりや写真がきれい
- 旧フランス租界の7つのカルティエごとに、建築が紹介されている
- 文章が少ないわりに、建物の由来や用途と、建築の専門的な説明がバランスよく書かれていて、現状についても言及されている
- TINTIN(タンタン)の“Le Lotus Bleu”に描かれた上海について言及されている
といった点で好感をもって読んだのだが、それだけに細かい間違いなどが気になった。気になった点をいくつか挙げておく。
- 固有名詞の表記に統一性がない。原語表記だったり、カタカナだったり、併記されていたりし、初出と既出の表記にも規則性がないように思われる。また、中国語のカタカナ表記がけっこう間違っている。たとえば、「三磊公司(サンシン・ゴンスー)」(p. 70)、「趙無極(ザオ・ウーキー)」(p. 94)、「Pang Xunqin(パンクンチン)」(p. 95)、「張充仁(チャン・チョン・チェン)」(p. 96)など(「杜月笙(トゲツショウ)」っていうのもね… )。著者のプロフィールには「中国語を自在に操り」と書いてあるので、著者が間違うはずはない。著者に表記に関するポリシーがなく、編集者が中途半端にカタカナ表記などを追加し、著者は最終的に全体をチェックしていない、といったところではないかと想像するが、そういう姿勢には全く共感できない。
- 宋家のきょうだい(宋靄齢、宋慶齢、宋子文、宋美齢)およびその配偶者の関係(誰が誰の義弟であるとか)の記述が数箇所間違っている。
- 著者に敬称がついている箇所がある(p. 126)。
- 汪兆銘政権のことを中国政府と書いている点に引っかかりを感じる。
- 事実に基づく内容が大半であるのに、参考文献がない。
それから、この本は、フランスの文化的なソフトパワーによる植民地統治によって、フランス租界にフランス的なクオリティ・オブ・ライフが持ち込まれたという視点から書かれている。なかにはこじつけか思い込みかという箇所もあるが、それはそれとして、あまりにもフランス贔屓で、植民地統治に対する批判的な視点がなさすぎるように思われる。そんなことは言わずもがなだし、「もちろん植民地はいけないが」みたいな枕詞をつけるのはアホだと思う。だけどこの著者の場合、言わずもがななのかどうかもよくわからない。しかもこのようなヴィジュアル中心の本は、「歴史や建築のことはよくわからないけれど、上海のきれいな建物を見て、お洒落な雰囲気にひたって来ました」みたいな人も読者の何割かを占めるに違いない。そういう人がこの本を読んだとき、「フランスは上海でいいことをしたんだ」と思わないか心配だ。