実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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[映画]『簪』

ニューキャッスルでカライライスをかきこんで、シネスイッチ銀座へ松竹110周年祭の『簪』を観に行く。『有りがたうさん』『簪』『按摩と女』。これが清水宏監督のベスト3だ。『有りがたうさん』と同様、家ではしょっちゅう見ているが、映画館では二度目。シーンも台詞もほとんど憶えているが、何度観ても面白く、至福の70分であった。

これまでのプリントは部分的に欠落しているので、ニュープリントにわずかな期待を寄せていた。しかし大方の予想どおりなんら変わらず。負傷兵の納村(笠智衆)が歩く練習をしていることを知った恵美(田中絹代)がそのことを話題にするシーンは、


恵美:「毎日ここでお稽古していらっしゃるの?」
納村:「あなたも?」
という意味不明の会話になってしまっているのだが、間に欠落があるとは思えないほど自然につながっているので、何度観てもおかしい。このシーンもそのままだった。本当はどういう会話なのか知りたくもあり、ずっとこのままであってほしくもあり。

ところで、この松竹110周年祭は、「風景」「暮らし」「銀座」といったテーマごとに作品が選ばれている。この『簪』は「着物」の一篇なのだが、どうにも違和感がある。主演の田中絹代が着物を着ているのは最初と最後だけで、途中はずんどう丸出しの洋服だ。川崎弘子の着物姿は艶やかだが、出番は少ない。この映画の見どころは、先生=斎藤達雄と若旦那=日守新一の掛け合いなので、そういうテーマで選択してほしいものだ。そうでなければ「温泉」とか「避暑地」とか。

家に帰るとJ先生がDVD-Rで『簪』を観ていた。なのでまた観る。