実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『地上』(吉村公三郎)[C1957-41]

神保町シアターの特集「川口家の人々」(公式)で、吉村公三郎監督の『地上』を観る。

地上 [DVD]

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大正時代の金沢を舞台にした悲恋メロドラマ。ちょっと『悪太郎』[C1963-11]を思わせるような、しっとりしたたたずまいの地方都市、旧制中学、女学生のモダンな雰囲気といった時代の空気が魅力。『悪太郎』と同じく、『さすらいの唄』も流れる。金沢といえば竹久夢二だけど、ヒロインが夢二の絵のうちわをもっていたり、夢二の絵を壁に貼っていたりもする。

没落した家の跡取り息子で貧乏学生の川口浩が、ブルジョアの令嬢・野添ひとみ、新米芸者の香川京子、小学校の同級生・安城啓子と、女の子たちにモテモテというお話。ヒロインは野添ひとみだが、香川京子のほうが印象に残る。彼女はいい家の生まれなのに借金のかたに芸者に売られたかわいそうな女の子という設定。しかし、身につけていた芸と清純な雰囲気ですぐに人気芸者になり、東京からストライキの始末にやってきた政財界の大物・佐分利信に提供されると、いきなり妾として東京に連れて行ってもらえるという強運の持ち主。「わたしはもうダメなの」と泣く彼女だが、佐分利信の妾ならいいじゃないかと思い、いまひとつ悲壮感がない。ちなみに大山健二が金沢市長役で出ていて、やはり彼女を狙っているけれど、もちろん香川京子様は大山健二ごときの手には入らない。

大手映画会社のなかで大映は最も疎遠な会社なので、たまに大映映画を観ると知らない人が多いのだが、これは知っている人が多く豪華キャスト。田中絹代とか三宅邦子とか信欣三とか小沢栄太郎とかが出ていて、大映だかなんだかわからない雰囲気である。

川口浩は、今まであまりかっこいいと思ったことがなく、「たいして二枚目でもないのになんでいつも主役なの? 七光りなの?」とひそかに思っていたのだが、この作品では古風なたたずまいが意外に似合って、はじめてちょっとかっこいいと思った。野添ひとみは、サイレント女優のような顔だとかねてから思っているのだが、あれはメイクなのか素顔なのか気になるところである。