ラピュタ阿佐ヶ谷の特集「昭和文学栄華館 - 昭和の流行作家たち」(公式)で、宇野重吉監督の『硫黄島』を観る。
硫黄島の生き残りで、戦後ふたたび島に戻って自殺してしまう主人公・大坂志郎を通して、戦争の傷を乗り越えられない男を描いたもの。何かを声高に糾弾するわけではなく、地味ながら、主人公に寄りそうような真摯な映画である。監督が宇野重吉なのでふつうの日活映画とは多少違うかもしれないが、日活のプログラムピクチャーの中でこのような映画も作られていたということに感心する。当時はそれだけまだ、戦争の傷痕が身近なものだったということかもしれない。
主人公が大坂志郎で、その死の謎を追う新聞記者が小高雄二という地味すぎるキャストだが、一点の華やかさを醸し出しているのが大坂志郎の戦友の妹・芦川いづみ。看護婦の役なのに制服シーンがきわめて少ないのは、「もう、宇野重吉ってばわかってないなあ」と嘆かざるを得ない。全部ナース姿にしたら、観客動員20%アップ間違いなしなのに。
彼女の役は、一見ふつうっぽいが、よく見ればやっぱりいづみさま。大坂志郎は、彼女を好きにならなければ何も死ぬことはなかっただろうに、何も知らないとはいえ彼を追いつめてしまう罪深い女いづみさま。大坂志郎が必死に思いとどまろうとしているのに、ほとんど押し倒さんばかりに彼に迫るいづみさま。いつもどおり、清純派なのに積極的ないづみさま。
小高雄二の上司が小沢栄太郎で、いつイヤミを言ったりいじめたりするのかとハラハラしたが、最後までよき相談相手の親切な上司だった。あり得ない。