シネマヴェーラ渋谷の特集「鈴木清順 再起動!」(公式)で『悪太郎』を観る。20年ぶり二度め。
鈴木清順監督自選DVD-BOX 弐 <惚れた女優と気心知れた大正生まれたち>
- 出版社/メーカー: 日活
- 発売日: 2006/10/20
- メディア: DVD
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
鈴木清順の映画にしてはヘンなところがほとんどなく、ヘンなのは下宿のおばさんのふみやこと小園蓉子と、上級生の野呂圭介ぐらい。モノクロ映像が美しい、非常に端正な映画である。東吾は軟派のお坊ちゃんの文学青年なので、硬派を気取る上級生の風紀委員たちとことごとく衝突するが、ぜったいに自分の主張を曲げずに軟派を通し、しかも力ではなく口で上級生をねじふせる。これが、山内賢のもっている雰囲気も手伝って、とにかくさわやかで小気味いい。
そして、古い日本のしっとりしたたたずまいと、当時の流行や西洋風なものとが混じりあった、なんともハイカラな雰囲気がいい。恵美子や芳江(田代みどり)の女学生風の髪型や袴や傘、ちょっとモダンな着物や襖の柄、家の中のちょっとした洋風なもの、ストリンドベリの『赤い部屋』に代表される西洋文学、恵美子たちが歌う「いこかもどろか♪」という『さすらいの唄』。無粋な学生服のなかでは、逆に東吾の袴スタイルのほうがモダンに映るし、下宿の縁側や文机、障子を通した光といったものも、今から見るとレトロな趣がある。雨の風情もすばらしい。
このハイカラな雰囲気は、美術の木村威夫の力が大きいようだ。舞台は兵庫県豊岡市だが、木村威夫のインタビュー本『映画美術 擬景・借景・嘘百景』によれば、ロケ地は岐阜や栃木らしい。郡上八幡や近江八幡にもロケハンに行ったようだが、撮っているかどうかは不明。一部の町並みや屋内など、セットもかなり大がかりに使われているようだ。