実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『悪太郎』(鈴木清順)[C1963-11]

シネマヴェーラ渋谷の特集「鈴木清順 再起動!」(公式)で『悪太郎』を観る。20年ぶり二度め。

大正初期、神戸の中学を退学になって豊岡中学に転校させられた紺野東吾(山内賢)を主人公にした青春映画で、豊岡中学での武勇伝と、岡村恵美子(和泉雅子)との純愛物語。

鈴木清順の映画にしてはヘンなところがほとんどなく、ヘンなのは下宿のおばさんのふみやこと小園蓉子と、上級生の野呂圭介ぐらい。モノクロ映像が美しい、非常に端正な映画である。東吾は軟派のお坊ちゃんの文学青年なので、硬派を気取る上級生の風紀委員たちとことごとく衝突するが、ぜったいに自分の主張を曲げずに軟派を通し、しかも力ではなく口で上級生をねじふせる。これが、山内賢のもっている雰囲気も手伝って、とにかくさわやかで小気味いい。

そして、古い日本のしっとりしたたたずまいと、当時の流行や西洋風なものとが混じりあった、なんともハイカラな雰囲気がいい。恵美子や芳江(田代みどり)の女学生風の髪型や袴や傘、ちょっとモダンな着物や襖の柄、家の中のちょっとした洋風なもの、ストリンドベリの『赤い部屋』に代表される西洋文学、恵美子たちが歌う「いこかもどろか♪」という『さすらいの唄』。無粋な学生服のなかでは、逆に東吾の袴スタイルのほうがモダンに映るし、下宿の縁側や文机、障子を通した光といったものも、今から見るとレトロな趣がある。雨の風情もすばらしい。

このハイカラな雰囲気は、美術の木村威夫の力が大きいようだ。舞台は兵庫県豊岡市だが、木村威夫のインタビュー本『映画美術 擬景・借景・嘘百景』によれば、ロケ地は岐阜や栃木らしい。郡上八幡近江八幡にもロケハンに行ったようだが、撮っているかどうかは不明。一部の町並みや屋内など、セットもかなり大がかりに使われているようだ。