実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『我が道を語る(語路)』(賈樟柯、宋方、衛鐵、陳翠梅、陳濤、陳摯恆、王子昭)[C2011-27]

有楽町朝日ホールで、賈樟柯(ジャ・ジャンクー/ジア・ジャンコー*)プロデュースのオムニバス・ドキュメンタリー、『我が道を語る』(東京フィルメックス)を観る。第12回東京フィルメックスの特別招待作品の一本。

様々な領域で活躍する12人の中国人が、自らの困難とその克服について語るもの。登場する人物は次のとおり。

  • 曹非(ツァオ・フェイ*):野菜のネットショップ・菜生活の創設者。
  • 黃豆豆(ホァン・ドゥドゥ/ホアン・ドウドウ*):ダンサー。
  • 張軍(チャン・ジュン/ジャン・ジュン*):昆劇の俳優。
  • 趙中(チャオ・チョン/ジャオ・ジョン*):環境問題のNGO・緑駝鈴の創設者。
  • 徐冰(シュウ・ビン/シュー・ビン*):現代美術アーティスト。
  • 王克勤(ワン・クーチン/ワン・コーチン*):中國経済時報紙の主席記者。
  • 周雲蓬(チョウ・ユンポン/ジョウ・ユンポン*):フォーク歌手。
  • 張穎(チャン・イン/ジャン・イン*):エイズの患者や孤児を支援するNGOの創設者。
  • 王一揚(ワン・イーヤン*):ブランド・ZUCZUGの創設者であるファッション・デザイナー。
  • 羅永浩(ルォ・ヨンハオ/ルオ・ヨンハオ*):語学学校・老羅英語培訓學校、ブログサイト・牛博網の創設者。
  • 肖鵬(シャオ・ポン/シアオ・ポン*):旅行コンサルタント会社、旅行サイト・易休旅行網の創設者。
  • 潘石屹(パン・シーイー*):SOHO中國有限公司の創設者である不動産ディベロッパー。

撮っている監督は、賈樟柯、宋方(ソン・ファン*)、衛鐵(ウェイ・ティエ*)、陳翠梅(タン・チュイムイ)、陳濤(チェン・タオ*)、陳摯恆(チェン・ジーホン*)、王子昭(ワン・ツーチャオ/ワン・ズージャオ*)の7人。誰もふれていない気がするが、宋方は『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』[C2007-30]にベビーシッターのソン役で出ていた女性である。

映画は、まず、各パートが短すぎて内容がうすい。88分の映画で12人を扱うのは多すぎる。出演者と監督のどちらが先に決まったのか知らないが、せめて一監督一人にすべきだろう。全体的に内容も散漫で、困難を乗り越えるエピソードに絞るべきだと思う。また、各人が最後にまとめコメントを言うというアイデアはおもしろいが、内容が抽象的で凡庸すぎてしらける。内田吐夢版『宮本武蔵』シリーズの錦ちゃんのコメントを見習うべき。

いちばん印象に残ったのは陳翠梅による王克勤のパート。モノクロで映像がきれいだし、ハードボイルドな雰囲気でよかった。宋方の2本(黃豆豆、張軍)も、対象が芸能関係だし、一度名を成したあとでさらにその先を目指す部分を描いていてわりとよかった。

プロデュースの賈樟柯は雇われ仕事なのかと思ったら、若者に希望を与えたいという目的の自身の企画らしい。この内容で希望を与えられるのか疑問だが、実際にネットで公開してかなり反響があったとのこと。それはたぶん、いまの中国では目標とすべき多様なモデルが十分提示されていないからではないかと思った。ちょっと前までは革命の英雄みたいなものばかり提示され、いまは経済的な成功ばかりがもてはやされているようにみえる。だから、NGOとか芸術家とか、政治経済とはちょっと別の世界のモデルが新鮮なのではないかと思う。しかしながら、賈樟柯が希望を与えたかった層(外資の工場で長時間労働させられて自殺するような若者)と実際に反響のあった層とはずれている気がする。

プログラムの質には定評のあるフィルメックスでこの映画が上映されることについて、疑問を呈するような声がけっこう聞かれるが、質をそろえることだけが映画祭の役割ではないと思う。その映画祭が贔屓にしている監督の作品を全部観せるというのもひとつの役割ではないだろうか。賈樟柯は間違いなくフィルメックスが贔屓にしている監督だし、陳翠梅もそうなりつつあるかもしれない。わたしはとりあえず賈樟柯と陳翠梅と宋方の映画は観たいと思ってきたから、別に文句は言わない。文句を言っている人は、「そりゃあいいんでしょう。フィルメックスでやるんだから」などとは思わずに、自分で判断してチケットを買うべきだと思う。

ところで、この映画はジョニー・ウォーカーの提供で、賈樟柯は、内容が‘keep walking’というキャッチフレーズにマッチしていると言っていたけれど、ジョニー・ウォーカーといえば『海辺のカフカ』を連想して、すごく邪悪な感じがしませんか?