実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『引き裂かれた女(La Fille Coupée en Duex)』(Cluade Chabrol)[C2007-55]

シアター・イメージフォーラムで、クロード・シャブロル監督の『引き裂かれた女』(公式)を観る。

「引き裂かれた女」と聞いて連想するのはモンゴル(元)の処刑である。左足と右足を別々の馬に縛りつけ、馬を別々の方向に走らせるというもの。しかしもちろん、この映画はモンゴルのお話ではない。お天気おねえさんのお話である。大学へ入って驚いたことのひとつは、理系(技術系)の男がやたらと女子アナやお天気おねえさんが好きだということだった。この映画は、エロかわいいお天気おねえさんがあんなことやこんなことをして、お天気おねえさん好きのあなたを喜ばせてくれるものである。あんなことやこんなことをはっきり見せてはくれないので、単純で即物的なあなたにはお薦めしないが、女性たちが胸の谷間やノーブラの乳首を惜しげもなく見せてくれるので(フランス映画にはありがちなことだが)、とりあえずそれで我慢しましょう。

一見遊んでいるっぽくてバカっぽいが、実際は自分の意志で行動するあまりスレていないお天気おねえさんのガブリエル(リュディヴィーヌ・サニエ)が、自分とは住む世界がぜんぜん異なる、ロクでもない二人の男に引っかかったあげく、いろいろとひどい目に遭うというお話。ひとりは既婚の高名な作家、すなわちエロじじいのシャルル(フランソワ・ベルレアン)。もうひとりは大金持ちの御曹司、すなわち甲斐性のないろくでなしのポール(ブノワ・マジメル)。

ラスト直前までそんなことはぜんぜん思わなかったが、終わってみればこれはいわゆる「少女が大人になる映画」だと思う。少年少女が大人になる物語は、どちらかといえば優れた年長者と交わって困難を乗り越えることにより成長するというものが多いが、これはロクでもない男たちやそのまわりの狡猾な大人たちによって、必ずしもいい意味ではなく大人にならされる女性のお話。それを象徴するように、「子供っぽい」とか「お子さま」とかいった台詞が繰り返し聞かれる。

「いかにもおフランス映画」という雰囲気と、どう進むかわからないスリリングな展開で、たいへんおもしろかった。何かが起こるずっと前から漲っている緊迫感や、そういうシーンがほとんどないにもかかわらず漂うエロティックな雰囲気、住む世界の違いが越えられないものとして立ちはだかっている不穏な空気などが印象的。登場人物はけっこう類型的で、共感したり好きになったりするような人物がぜんぜんいないにもかかわらず、どの登場人物も興味をそそり、印象に残る。