実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『独身男(光棍兒)』(�傑)[C2010-38]

東京フィルメックス10本めは、同じく有楽町朝日ホールで�傑(ハオ・ジェ)監督の『独身男』(FILMeX紹介ページ)。コンペティション作品。

河北省の村を舞台に、4人の初老の独身男たちの日常を、下半身中心に描いたインディペンデント映画。中国の農村モノというとちょっと敬遠してしまったりするけれど、そういうイメージとはぜんぜん違う、かなり楽しい映画だった。

田舎の独身男というとよほどモテなかったのかと思うが、そういうわけではないようだ。相手はいたけれど、反対されたりして結婚できなかったのが二人。結婚はしたけれど…というのが二人。相手がいた二人は、その女性と今もちゃっかり関係を続けている。双方ともそれで悩んだりすることもなくあっけらかんとしていて、女性のほうももっとグレードの高い男と結婚しておきながら、独身男から金銭的援助をしてもらったりしている。

英題も“Single Man”だし、独身男のもうひとつのイメージといえばやはり「ゲイ疑惑」。こちらは終盤まで「そっちはないのか」と思わせておいて、最後の最後に登場。中国でもマザコン男はゲイらしい。

農村とか田舎とかいうと、保守的で偏狭で画一的で他人と違うことを嫌うというイメージと、逆に性に対して大らかというイメージがある。わたしとしては前者のイメージが強いけれど、この映画は圧倒的に後者。不倫をしているとかゲイであるとかをみんなが知っているわけではないが、そういったものに対してもあまり偏見があるようには感じられない。

下半身ネタの中に、主要な農作物である西瓜を売るエピソードや、四川から売られてきた花嫁のエピソードや(独身男のひとりが買ったものの、若い男に取られる)、党幹部の親が金を使ってやっと息子を村で初めての大学生にするエピソードなど、現在の中国社会を表すような話がうまく盛り込まれている。

映像的には、まず冒頭、幼い男女が並んでおしっこをしていて、ずっと後ろに4人がすごく小さく映っているシーンがおもしろかった。画的にもいいが、あとから考えると、幼いころから下半身のことを独身男たちにチェックされている図という感じで興味深い。また、四川女をめぐる争いを、ガラス窓の外から長回しで撮ったシーンもよかった。

舞台・ロケ地となった顧家溝村は、最寄りの都会が張家口のようだったので、たぶんここだと思う。

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上映後、�傑監督、四川女を演じた葉蘭(チャン・イェラン)、プロデューサーのケビン・クーをゲストにQ&Aが行われた。そのレポートはこちら(LINK)。監督の話では、映画の舞台は監督の故郷であり、出演者は葉蘭を除いて実際の住民で、本人または別の村人をモデルにした人物を演じているとのこと。中国北部の村には、どこもこのような独身男のグループがあるということだった。