実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ドッグ・スウェット(Aragh Sagee)』(Hossein Keshavarz)[C2010-16]

六本木に移動して、東京国際映画祭11本めは、シネマート六本木でホセイン・ケシャワルズ監督の『ドッグ・スウェット』(TIFF紹介ページ/公式(海外))。アジアの風・アジア中東パノラマの一本。

テヘランを舞台に、6人の中流以上の階級と思われる若い男女(互いに接点があったりなかったりする)を並行的に描いたもの。従姉の夫と不倫する女性Katie、会うたびにひたすらやれる場所を探すKatherineとDawoodのカップル、見合い結婚する、歌手になるのを諦めた女性Mahsaとゲイの男性Homan、政府に不満をもつ青年Massoud。彼らの日々のスケッチを、ドキュメンタリータッチで淡々と描いている。

テヘランってここまですすんでるんだ」と驚愕すると同時に、都市化が進めばどこも同じようになっていくのだろうと思う。政治的、宗教的な規制があってもなくても。不倫やゲイといったセンセーショナルな面だけでなく、女性たちが外で身につけているゆったりした服やスカーフを取ると、流行の髪型やメイクに、体の線が出るファッションだったりするのも興味深い。

一方で彼らは法にふれるような存在であって、一方で道徳的な規制や差別や偏見のあるこの世界で、だれもが直面するような悩みを抱えている存在である。たとえば、女性ヴォーカルを録音するのさえままならない状況では、歌手になるのを諦めざるを得ない、というのはイランならではの事情であるが、彼女が結婚するのは母親を安心させるためであったりもする。

いちばん印象的な登場人物はやはりMahsaとHomanのカップル。それぞれの思惑で結婚した結果、しあわせに暮らしているように見えるが、デモテープに興味を示すプロデューサーが現れ、Mahsaが母親に「わたし、人生を間違えたわ」とつい言ってしまうのがせつない(母親は聞いていないが)。一方のHomanは、元の恋人に「世間に反抗するのをやめたら楽になった」とか「僕たち、オトモダチでいようね」とか言って二股はかけないのだが、やはり男がいいらしく、テヘランの二二八和平公園にナンパしに行ったりする。テヘランにもちゃんと二二八和平公園があるのも驚きだった。

もうひとつ、この映画で描かれているのは親の世代との対比である。家風みたいなものはそれぞれちょっとずつ違うけれど、親の世代はやはり道徳的、宗教的に保守的である。イラクの聖地にお参りに行くのが何よりしあわせなMahsaの母親、コンドームを見つけて娘を監禁するKatieの母親、息子が友人とプールでじゃれ合っているのを見て、ゲイだと見破って号泣するHomanの母親。このシーンも驚愕。母親にはわかるもんなんですかね。

監督のインタビューはこちら(LINK)。