東京国際映画祭8本めは、六本木ヒルズで廖捷凱(リャオ・チエカイ)監督の『赤とんぼ』(TIFF紹介ページ)。アジアの風・アジア中東パノラマの一本。
シンガポールに戻ってきたレイチェルという女性が、個展を開いたり親族や友人に会ったりしてシンガポールで過ごすなかに、彼女の記憶と思われる子供のころの映像が挿入された映画。記憶の中心となっているのは、中学生(かな?)時代に男の子二人と鉄道の廃線跡をたどった体験である。
HDCAMで撮影されているにもかかわらず、みずみずしい木々の緑やそれらが織りなす光と影が非常に美しい。草木に埋もれかけた廃線跡というのも好みだし、トンネルの風景もいい。シンガポールでは、あまり自然のある場所には行ったことがないが、この廃線跡にはぜひとも行ってみたい。ジャングル以外の露店や市場の映像にも、マレーシアとも台湾とも違うシンガポールの香りが感じられてうれしかった。
記憶がよみがえるきっかけやその内容は理屈では説明できないし、よみがえってくる記憶は必ずしも筋の通ったものだったり、すべてが本当の記憶だったりするわけではないだろう。この映画では、そういう脈絡のなさ、あいまいさみたいなものが表現されているように思われる。しかし、レイチェルにとってのそれらの記憶がもつ意味みたいなものがわからず、あまりに個人的で、いろいろなエピソードのあいだのつながりもわかりにくいので、わたし自身の記憶や喪失感、ノスタルジアみたいなものを揺さぶられるまでには至らなかったのが残念。
また、若いレイチェルを演じるのが、メガネをかけた、いかにもシンガポールの進学コースの女の子みたいな子なのが残念。仮にも映画なので、もうちょっとかわいい子にしたほうが、観る者の記憶の扉をくすぐりやすいのではないかと思う。ちなみに彼女たちはなぜか体操服でハイキングをしており、最初パッと見て「わあ、ブルマー」と思ったが、よく見たら短パンで残念でした。
そういえば、日本人女性が「人生初ドリアン」を食べるシーンがあった。でも、「残していい?」とか言っていた。がっかりだ。
上映後、廖捷凱監督と現在のレイチェル役を演じたン・スアンミンをゲストにQ&Aが行われたが、昼ごはん時間を確保するためパス。監督のインタビューはこちら(LINK)。