実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『素晴らしき大世界(大世界)』(唐永健)[C2010-82]

シネマート六本木のSintok2012シンガポール映画祭(公式)で、唐永健(ケルビン・トン)監督の『素晴らしき大世界』を観る。

  • シンガポールに実在した娯楽施設・大世界を舞台に、4つの物語をオムニバス風に描いた映画。写真館の女主人の孫が、店に飾られていた写真の主を探すという趣向で、大世界で働いていた4人の人物の物語が、50年代、60年代、70年代、40年代を舞台に語られる。そこには、日本軍による占領、マレーシア連邦の成立から分離独立といったシンガポールの歴史や、時代による娯楽の変遷など、多くのシンガポール人が共有する記憶が盛り込まれている。
  • ひとつひとつは、ベタだけれどちょっといい話。それを年代順に並べたと見せかけておいて、最後に日本軍の侵攻をもってくる。それによって、ハートウォーミングなだけでは終わらない、苦い味つけがなされており、なかなかうまい構成だと思う。
  • 大世界も、金子光晴が『マレー蘭印紀行』で言及している新世界も、上海を真似て作ったのだと思うが、上海の大世界が垂直展開しているのに対して、シンガポールの大世界は水平展開しているようだ。映画のなかの大世界は作り物感満載で、どの程度実在したものに忠実なのかわからないが、とにかく大世界を再現したのがこの映画の最大の功績である。レトロでキッチュな雰囲気と、楽しそうなお客さんで溢れている幸福感がすばらしい。
  • 音楽は、葛蘭(グレース・チャン)の“我愛恰恰”と“說不出的快活”、姚莉(ヤオ・リー*)の“玫瑰玫瑰我愛你”が使われている。
  • 第四話は‘1941年12月8日’と出て、「日本軍が港を爆撃している」といって騒ぎになる。日本軍はこの日未明にマレーシアとタイに上陸し、2月までかかってシンガポールに到達するが、8日にシンガポールを爆撃したりしたのだろうか。また一般市民は、宴会の時間まで日本軍のマレー半島侵攻を知らなかったのだろうか。