実録 亞細亞とキネマと旅鴉

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『ヤンヤン(陽陽)』(鄭有傑)[C2009-18]

朝から六本木ヒルズへ行き、鄭有傑(チェン・ヨウチェ)監督の『ヤンヤン』を観る。陽陽(張榕容/サンドリーナ・ピナ)という女子大生が、いろいろな経験をして成長するさまを描いたもの。ふつうにおもしろかったが、やはり鄭有傑はもう『シーディンの夏(石碇的夏天)』[C2001-19]みたいな映画は撮らないんだなと思った。残念だけど諦めます。

陽陽の心情を生々しく伝えるため、手持ちカメラの超アップを多用していたが、残念ながら生々しさはあまり伝わらなかった。息がつまるようなシーンもいくつかあったけれど、陽陽の息づかいというか、彼女から発せられるオーラのようなものを、わたしは感じることができなかった。

その理由はいくつかあると思うが、まず第一に陽陽の、というか張榕容という女優のルックスにぜんぜん興味がわかない。同時に、陽陽という人の内面的な魅力も今ひとつよくわからない。なにか外見的にも内面的にも、魅力の核というか、きらりと光るものが見つからないのである。

第二に、陽陽の想定や経験があまりに非凡すぎる。ハーフでフランス人の父親とは生き別れ→陸上で大学へ入れるほどの実力→母親が陸上部のコーチと再婚してライバルが義姉になる→義姉のボーイフレンドと寝てしまう→義姉の復讐でドーピング事件に巻き込まれる→家を出て陸上も捨てるが、美貌を生かして芸能界入り。一見淡々と描かれているが、こうしてみるとあり得ないほど波乱万丈である。

それぞれのできごとは互いに無関係ではないが、それほど深く関連しているわけではなく、ひとつひとつのできごとはあまり深く描かれない。そのため、たとえば父親を克服するというクライマックスにしても、どうもステレオタイプな物語に思えてしまう。陽陽がひたすら走りつづけるラストはよかったのだけれども。

わたしにとって今年の東京国際映画祭はこれで終了。コンペティションの中華圏映画には失望したが、アジアの風はおおむね満足した。何年か前まで、最も満足度が高いのは台湾映画だったが、いまはマレーシア映画であることを再認識。

Sakura食堂で秋刀魚を食べて、『よく知りもしないくせに』[C2009-16]を観るJ先生を置いて帰宅。